会をつくり、千里の道を運ぶ速度ともなってくるのである。
 河があやをつくり、それが図となり、文字となった歴史の涯は、水の文がそのまま光となりて眼前に輝くことと成ってきたのである。人間という動物は、ある意味においては大変な動物である。文字と言葉で、宇宙の秩序を、自分の中に鏡のごとく写すことのできる動物である。一人一人が小宇宙となること、ミクロコスモスとなることができる動物に自分自身を仕立てあげ、創りあげることができることとなったのである。
 この驚くべき動物を包んで大きく、大きく宇宙の秩序は、拡がっている。この巨大さに打たれ身をゆだねるこころが、美への帰依、「美しい魂」のすがたなのである。
 そこにすでに存在する秩序が、自分の周囲にも、自分の中にも、自分のこころのすみずみにも(むしろ、その「こころ」ということが、その秩序のうつし合うはたらきそのものであるのだが)あることに、驚き、力を放下して、見とれ、打ちまかせ、根性を翻えすところに、「美しき魂」の意味がある。
 私たちが動きながら、ある静けさに邂逅したしるしである。
 スポーツで例えば、泳いでいて、楽に泳げるようになったとき、それは、そ
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