国立国会図書館
中井正一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)工場機構《ファクトリー・システム》
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 戦後の春、こんなところにと思われる爆撃の跡に、一杯に青草が生えて来た。
 自然にとって戦争なんて、一つの物理的現象にしかすぎなかったのかとつくづく驚かされた。しかし、文化というか、十万年の人間の発生史の目指した大きな方向も決して、この五千年の歴史の制度のみに左右されてはいない。自然のこころに似た大きな広い流れが歴史の底にも流れている。
 アレクサンダーが戦を起して、多くの人々が印度とイラン地方の砂の中に骨をうずめたが、その間にも、文化のいとなみは、自然のそれの如く、その歩みを止めなかった。東西の文化はあの時一つの流れの中にとらえられ、高きものは低きものへと水圧のそれのように世界の文化の面の上に拡がった。アレクサンドリア図書館はその一つの記念塔である。それはピラミッドよりももっと大きなものを魂の中にうち立てた。後の新プラトン哲学以後の哲学の泉の源として、巨大な役割を果たしたのである。
 国立国会図書館も、長い目で見れば、遠い東のアレクサンドリア図書館なの
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