もってきたのである。
 大工場のような感じが時々するのである。その一技師にしか自分はすぎない、と思っている。タイプライターの音、電話の交錯、交渉、訓練等々目のまわるような忙がしさで、一日が終わってしまう。閑日月の中に明窓浄机で本を読む世界と遠く離れた世界である。一冊も本を読めない私の一日が、副館長の一日でもある。
 よく、洪水の中が一番水に欠乏するように、図書館が、一番私にとっては本の読めない所となってしまったのである。
 新年度の予算では、係のものは二週間、朝三時ごろまで寝ない日がつづいた。私も夜半まで皆の帰るのをただ一人待つ日が多かった。
 赤坂離宮の全館に人一人いない夜、ただ一人(宿直は二人いるが)待っていると、しみじみ自分の肩に荷なっているものの重さを思い、ここに自分の命を捨てるのだという思いが、切々として迫ってくるのであった。
 そして、どうしても切られた予算を盛りかえして、五百人の館員のよろこぶ顔を見なければと、音のしない闇に向かって、何か沸ぎるものを感ずるのであった。
 あらゆる無理解をもつらぬいて、目に見えない未来に向かって、国の政治もよくなり、全日本の図書館(図書館法
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