言語は生きている
中井正一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)原子力時代《アトミックエージ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)線[#「線」に傍点]
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 フンボルトは、言葉はエルゴン(創られたるもの)ではなくして、エネルゲイヤ(創るちから)であると云う。
 ほんとうに言葉は生きているように思われる。と云うか、同じ言葉を十年くらいで、もう、ほかの意味に取違えてしまう。それほど言葉は生きて動いている。
 例えば、外国語の subject なる言葉を、人々は「主観」と訳していた。ところが昭和七、八年頃から、それは「主体」と訳されはじめたのである。もはや主観ではもり切れないものが、subject なる言葉の周辺にまつわりつきはじめたのである。ことに世代が違うと、何の迷いもなしに新しく読み違えて出発する。
 かくして、新たな言葉が、更にこの言葉の周辺に生れて来る。例えば、「あの人は誰々の線[#「線」に傍点]だ」等と云う言葉が最近流行する。おそらく誰々の属しているフロント、その戦線の一列の人々の意味であろうが、すでにそこでは、その人を
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