機構への挑戦
――「場所」から「働き」へ――
中井正一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)形態《モルフェ》
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 私はこの半年間にこんな経験をした。
 私は大きな組織と機関に属する者としてものの考え方が、場所とかスペースの考え方では割切れない、新たな考え方「働き」或いは「機能」(ファンクション)でもって解かなければ、解釈のつかない問題にぶっつかった。そのことについて一つの報告を試みよう。
 国会図書館には支部図書館という一つの機構があって、それはアメリカの国会図書館にもないところの、新しい機構である。それは各省と司法部等各官庁の図書館を、支部図書館と名づけて、国会図書館を中心として、一グループの図書館群を構成する機構である。この支部図書館がいよいよ出来上る時、過半数の人々はまことにその前途を危ぶんだのである。
 何故ならば、官庁には官庁独特のセクト主義があって、横の連絡をつけることはいうべくして現実には空想に近いものであると人々は思ったのである。
 このプランに夢をえがく者をもって、人は官僚を未だ知らざる人として、秘かに危ぶんだのであった。私もまた、それには深い不安の思いをもった一人であったが、私は敢えてこのプランをもって、丹那トンネルの工事になぞらえたのである。
 十八の支部図書館長等は、半信半疑のまま、法律の命ずるところに従ってこのプランに突込んでいったのである。初期の図書館の概念は、おおむね図書室と書庫のスペースと、書庫とその中の本及びその本をまもる司書とで構成されていた。甚しいのになると、その省の組合員の厚生機関ぐらいに考えられていた所もないではなかった。まことにあるかなきかの形式的な、組織に過ぎなかった。去年の八月半ばの私達の心持は何となく、不安と暗い思いであった。
 やがて秋、国内の官庁出版物を米国に送る事によって、アメリカの国会図書館から、交換として送って来る、外国官庁出版物は時には月一万部を越える事すらあったのである。これに目をつけたのが農林省であった。彼等は近藤康男氏を主班として渉外局、調査局及び八つの研究所を、打って一丸としてこの外国図書に向って殺到して来たのである。
 そこではもはや、本を読むとか、本を納めておくとかいうスペース、場所としての図書館ではなくして、それは図書課とでもいうべき、大きな組織としての「働
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