上に現代に意味をもちはじめた。すなわち、技術は近代的科学の名において、また模倣は、普遍的なるものの模倣すなわち調和の名において、フェニックスのごとく灰燼の上に新しき装いをもって立ちあがりはじめた。
 いわばギリシャでは、技術[#「技術」に傍点]の概念は人間の身体構成の上にかぎられた。しかし、現代の技術[#「技術」に傍点]の概念は社会構成の上に生産さるる科学的機械的技術をも含む。それは、天才[#「天才」に傍点]をもその一要素として構成因子とするところの巨大な機構の内面である。この技術[#「技術」に傍点]が、近代の視覚、見る意味に大きな変化をもたらしたことは、多くの美学者の指摘するところである。ベーラ・バラージュ、ヴェルトフ、フランツ・ローなどの考えかたが、それである。
 それはレンズの見かたの発見である。
 それは実に個性なき非人間的存在ではある。しかし、それは見る存在である。いわば見る機能《フンクチオン》の異常なる発展であると共に、実に一つの性格の所有者でもある。
 たしかに、人の眼球構造と相似の過程ではある。しかし、望遠鏡や顕微鏡におけるがごとくその視野の拡大と正確性は、人の見る意味
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