聖なる一回性をその底にもつ時代の大きい後姿がにじんでいる。
 ギリシャにおいて芸術の特殊性が考察された時、始めにプラトンより次いでアリストテレスによって指摘された概念は、技術 〔teche_〕 であり、また模倣 mimesis であった。ロマン派的思想すなわち芸術至上主義は、これらの概念の否定より出発し、その芸術論は、技術の概念に対する天才の概念、模倣の概念に対する創造[#「創造」に傍点]の概念の上に成立した。
 しかし、この天才と創造の概念は、それが指摘された時は、実に正当な権利を保持したるにもかかわらず、その解釈者あるいは亜流によってみずからその正当なる意味の理解を失すること、あたかもちょうど技術[#「技術」に傍点]と模倣[#「模倣」に傍点]の概念がその正当なる意味の理解が怠られたると同様であったことである。
 そして天才[#「天才」に傍点]と創造[#「創造」に傍点]の概念は、ついに放恣[#「放恣」に傍点]と個人性[#「個人性」に傍点]とに仮託的重要さをあたえるにいたった。現今の芸術のになえる悪評は、まさしくその欠陥においてである。かくて今や、再びギリシャへの興味は、異なりたる姿の
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