上、この手の骨格が、足の骨格から変わってきた何万年かの百年ごとの変革ぐらい知っていてよいのである。だのに何も知らない。ただその長いプロセスの結論として、ステッキを握り、握りこぶしを握って、時には相手をなじっているのである。
しかし、知るという以上、人間が地上に立ったという、二十万年の歴史、手が自由になった時の、その「自由」の感じを、まともに再び、継承し、意識し、受身でじゅうぶんに知らなくてはならない。
それからまた例えば、一人で独白をしてみて言語を創出した人間の長い、そして初めての愉快だったにちがいない気分をも、受身で知ってみるべきであろう。
そして、それらのことから、宇宙に、石ころだろうが、木ぎれであろうが、秩序と法則をもっているらしいことを発見した人間の初めてのたどたどしい驚き。これも思いかえしてみるべきである。
宇宙に、何も知らない宇宙に、こんな存在がただ一つ、いくら小さくてもただ一つできたこと、人間ができたこと、このことを、この世紀でもやはり驚くべきである。
たとえ五千年の歴史が、どんな誤りを犯していても、この二十万年の驚くべき現実に比べれば、四十日のすばらしい旅行の
前へ
次へ
全6ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中井 正一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング