の鐘声が弱ることは誓えるものの裏切りのしるしである。それは全時代が転回できるかどうかその大きな戦闘の勝敗への期待である。あたかも「時代」、あたかも「時」自体が常にこの「問の構造」の上に在り、パンドラの箱の秘密の中に閉じらるる以上、この期待の感に漂う愉悦の内には深い存在関連の認識、存在肉薄の欣恃が漂うというべきであろう。「未知」の中に在る喜悦の涙、そこにいわば裸わなる存在の原型の把握といわるべきものがあるのではあるまいか。
しかしそれは観覧者のもつ勝敗の期待感である。これが競技者においては、チームAB……の闘争において「Aが勝つ」「Bが勝つ」の相反的判断が共在して緊張的構成を形成するにしても、自らが属するチームがAあるいはBである。もし仮にAであるとすれば「Aが勝つ」の判断は可能性であるよりもむしろ必然的である。すなわち可能的なるものを必然的ならしむるところに意志の構造がある。
クリューが迫り来る敵艇のスパートをより鋭いスパートをもって引離す心持「これでもか」「これでもか」と重い敵艇の接近を一櫂一櫂とのがれゆく心境は、その進行する一艇に自分が乗れる意味で、蓋然より必然へと自らの艇を引
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