現象の数量化においてなされるところのごときものがそこに在る。
 しかも、この場合現象とは人間の神経、筋肉あるいは肉体的諸機能の上に限られる。一言にしていえば数量化されたる血液構成である[#「数量化されたる血液構成である」に傍点]。The better won! たとえ一|吋《インチ》であれ一秒であれ、いやしくも「差」あるならばそれは誇りか諦めかを意味する。この数の厳粛とその運用性、そこにスポーツの深い組織がある。ホイッスルが鳴って、一斉にラガーが動き始むるとき、球がそのいずれかの一人に落ちた瞬間、味方の十四人は勿論、敵の十五人の一々があたかも深い数学のごとく黙々とそのあるべきプレイの位置に動いているのを見入る時、球を中心として、見えざる力の波紋が次から次へと二方向的に作用するのを見る。そして、得点はともあれ瞬間息もつかせざる関係の構成、一人のTBに渡すハーフの一擲は十四のラガーに呼懸ける「見えざる関係の構成」でなくてはならない。もし「構成の感覚」が今新しき芸術の要素であるならば、タッチラインをカンヴァスとし、スパイクをピンゼルとするかのラグビーは瞬間崩れゆく現《うつ》つの夢ではあれ、し
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