カットの文法
中井正一

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『詩経』は中国での万葉集ともいうべき、まことに可憐な詩句と自由な愛がうたわれている。しかし、この詩篇を注釈した中国の最古の最大の美学者は、「詩は志なり」「詩は刺なり」といい放っている。
「志」とは、文学と文化に関係をもつものたちが、政治に対して、消しても消しきれない断っても断ちきれない願いをもちつづけること、そしてそのために身の危険を冒しても、あえて挺してそれを貫かなければならないところのものである。
 詩は、かかる五分の魂を風に吹かれてひろがる虫のように、人の口から口に伝わってひろがらしめるものである。詩が「諷」せられるというのも、風の中に「虫」の字がひそんでいるのもそのことをものがたっているのである。
「刺」とは、このひろがるところのものが、人民のうらみのことばであり、詩は剣のように、ひそかに政治の誤謬をさし貫き燎原の火のごとく人の手から人の手にうつりゆく武器となったのである。「諷」と「刺」は、かくして一つのものとなってくるのである
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