レンズとフィルム
――それも一つの性格である――
中井正一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)涵《ひた》った

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)半分|涵《ひた》った

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)「時[#「時」に傍点]」
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 引金を引くような心持ちで指でふれる時、フィルムはすでに回転している。レコーダーは五フィート、十フィートと記録していく、重い感じの機械音を撮るものにとっては、ある大きな組織の中に巻き込まれている感じである。一コマ一コマの構図に眼は繰り入れられてはいるけれども、心はより多くの関心を、レンズのシボリと光線に配られている。そして、さらに生フィルムの一つの性格について、常に軽い実験的興味と親しみを感じている。現像液の中にすら、自分もが半分|涵《ひた》った思いである。
 そして、しかも、今の三フィートは、プランにしたがって、どこに位置づけられるべきかを感じている時、それは緊まった、キレた感情とある部署感をともなっている。今、もぎとっている現実の一片は、今から描かんとするシナリオの、未
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