頂きにたどりついて、脈々と連なる尾根を見晴らす時、何か叫びだしたくなる。そしてヨーホロロ…………ォと山に特有の調子でどこへともなく喚びかける。否、全山の清澄な空気と無限の寂《しず》けさへ向って喚びかける。そしてしばらく耳をすます時、山々の嶺より帰りきたるみずからの声がいろいろの変形を受けながらひろびろとひろがって、かぎりない空間に消えていく、ある時は見えない谷間から人の声をもって、ヨーホロロ…………ォと喚びかえさるることすらある。一つの声が無限の空間の中に喚びかえし、木魂《こだま》し反響するその深い感興こそ、胸の中のあらゆる幾山河に響かうそのひびきにもそれは似るであろう。
 かかる反響、射影こそ芸術の原現象の象徴でなくてはならない。移《うつ》し、映《うつ》し、覆《うつ》す、すべての現象は、かかるただちに声をうつしあう射影的現象でもなくてはならない。言葉の母音ならびに子音のあい反映する領域がすなわち文字の韻律である。音響の種々の変容による射影現象が作曲の意味でもある。
 うつすという現象の中にこそ深い芸術の原現象《ウルフェノメナ》がなければならない。
 すでに日本語ではかたち[#「かたち
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