「良書普及運動」に寄せて
中井正一
アメリカのテネシー谿谷の水を合理的処理をすることで、かつて、洪水で人々の苦労の種であった落差が、今や、電力となり、木材の運搬の水路となり、光と、動力の根源とさえなったことは有名な事件である。
テネシー・ヴァレーの事業として有名である。
人間の技術は、今や、集団的構造でもって、巨大なプランを企てている。ちょうど、英雄が大いなる馬を制禦したように、ドン河を、鴨緑江を、テネシー谿谷を、数学と科学の金具でしめつけることでその荒れ狂う力を止め、それを乗りこなしたのである。
かつて、英雄が、それをしたように、今は、人々が協力し、お互いに組織化することで、それに成功したのである。
今出版界においても、一つの大いなる落差をもっている。それは都会における良書の出版毎にストック化することである。そして、それを求めている田舎の良書の飢渇である。それを放置して置くと、それは、一つの洪水現象となって、一部のゾッキ本の混濁の中に、良書も涵されることとなるのである。これを防ぐ良心ある店は、二重の苦悩の中に落ちることとなるのである。
これは、只読者の怠慢ではなくして、
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