ォ質である。限られた量しか存在せずかつ競争によって増加され得ないすべての他の貨物は、その価値については、購買者の嗜好や気紛れや資力に依存している。しかし貨幣はいかなる国もそれを増加せんとする願望を有たずまたは必要を有たない貨物である。通貨を二千万使用することからは、一千万使用することから起る以上の利益はない。一国が絹または葡萄酒の独占権を有っていても、しかも気紛れや流行や嗜好のために、毛織布及びブランデイが好まれかつ代用されるであろう故に、絹製品及び葡萄酒の価値は下落するであろう。同一の結果は、金の使用が製造業に限られている限り、ある程度において金についても起り得よう。しかし貨幣は交換の一般的媒介物であるから、それに対する需要は決して選択事項でなく、常に必要事である。諸君は諸君の財貨と交換にそれを受取らなければならず、従ってもしその価値が下落するならば、外国貿易によって諸君が受取らせられる分量には限りがなく、またもしそれが騰貴するならば、諸君はいかなる減少にも服さなければならないのである。もちろん諸君は紙幣を代用し得ようが、しかしこれによって諸君は貨幣の分量を減少しないし、また減少し得ない、けだしその分量はそれと交換されるその本位の価値によって左右されるものであるからである。僅少な貨幣をもって貨物が購買される国からそれがより[#「より」に傍点]多くの貨幣に対して販売され得る国へと、貨物が輸出されるのを、諸君が妨げ得るのは、貨物の価値の騰貴によってのみであり、そしてこの騰貴は外国からの金属貨幣の輸入により、または国内における紙幣の創造または附加によってのみ、行われ得るものである。かくてもし、スペイン王が鉱山を独占的に所有すると仮定し、そして金のみが貨幣として用いられると仮定すれば彼が金に対し大なる租税を賦課するとするならば、彼はその自然価格を極めて多く引き上げるであろう。そしてヨオロッパにおけるその市場価格は、終局においてはスペイン領アメリカにおけるその自然価値によって左右されるのであるから、一定分量の金に対しヨオロッパによってより[#「より」に傍点]多くの貨物が与えられるであろう。しかし同一分量の金はアメリカにおいては生産されないであろう、けだしその価値は単にその生産費の増加の結果たる分量の減少に比例して増加されるに過ぎないからである。かくてアメリカにおいてはその輸出されたすべての金と交換に以前よりもより[#「より」に傍点]多くの財貨が取得されはしないであろう。そこでしからば、スペインとその植民地にとってどこに利益があるか? と問われ得よう。その利益はこういうことであろう、すなわち、もしより[#「より」に傍点]少い金が生産されるならば、より[#「より」に傍点]少い資本がその生産に用いられ、以前により[#「より」に傍点]大なる資本の使用によって取得されたと同一の価値を有つヨオロッパからの財貨が、より[#「より」に傍点]小なる資本の使用によって輸入され、従って鉱山から引き去られた資本の使用によって得られたすべての生産物は、スペインが租税の賦課によって得、かつそれが他のいかなる貨物の独占権の所有によってもかくも豊富にかつかくも確実に取得し得ないであろう所の、利益であろう。かかる租税からは、貨幣の関する限りにおいては、ヨオロッパの諸国民は何らの害をも蒙らないであろう。彼らは以前と同一の分量の財貨を有ち、従って同一の享楽手段を有つであろうが、しかしこれらの財貨は、貨幣価値が騰貴しているから、より[#「より」に傍点]少い分量の貨幣をもって流通されるであろう。
 もし租税の結果として金の現在量の単に十分の一が鉱山から得られるに過ぎないとするならば、その十分の一は現在生産されている十分の一と等しい価値を有つであろう。しかしスペイン王は貴金属の鉱山を独占的に所有してはいない。そしてもし彼がそれを独占しているとしても、その所有による彼れの利益及び課税権力は大なり小なりの程度における紙幣の普遍的代用の結果として、ヨオロッパにおける需要と消費との制限によって、極めて著しく減ぜられるであろう。あらゆる貨物の市場価格と自然価格との一致は、あらゆる時において、供給が増減され得る容易さに依存する。金や家屋や労働や並びにその他の多くの物の場合には、ある事情の下においては、この結果は急速に齎され得ない。しかし帽子や靴や穀物や毛織布の如き、年々消費されかつ再生産される貨物の場合はこれと異る。それらは、必要の際には、減ぜられ得よう、そして供給がそれらの生産費の増加に比例して縮小されるまでの時の隔りは、長くあり得ないのである。
 土地の表面からの粗生生産物に対する租税は、吾々の既に見た如くに、消費者の負担する所となり、そして毫も地代には影響を及ぼさないであろう。ただしそれが労働の維持のための基金を減少することによって、労賃を低め、人口を減じ、そして穀物に対する需要を減少する場合は、この限りではない。しかし金鉱の生産物に対する租税は、この金属の価値を騰貴せしめることによって、必然的にそれに対する需要を減じ、従って必然的に資本が用いられていた職業からその資本を排除しなければならない。しからば、金に対する租税から前述のすべての利益をスペインは得るであろうにもかかわらず、資本が引き去られた鉱山の所有者はすべての彼らの地位を失うであろう。これは個人に対する損失ではあろうが、しかし国民的損失ではないであろう。地代は富の創造ではなく単にその移転に過ぎないからである。スペイン王と、引続き採掘される鉱山の所有者は、相共に、啻に解放された資本が生産したすべてを受取るのみならず、更に他の所有者が失ったすべてをも受取るであろう。
 第一等、第二等、及び第三等の質の鉱山が採掘されており、そして各々一〇〇、八〇、及び七〇|封度《ポンド》の重量の金を生産し、従って第一等鉱山の地代は三十|封度《ポンド》であり、第二鉱山のそれは十|封度《ポンド》であると仮定せよ。今租税は採掘されている各鉱山に対して年々七十|封度《ポンド》の金であり、従って第一等鉱山のみが有利に採掘され得ると仮定せよ。すべての地代が直ちに消失すべきことは明かである。租税の賦課以前には、第一等鉱山で生産された一〇〇|封度《ポンド》の中から三十|封度《ポンド》の地代が支払われ、そしてこの鉱山の採掘者は、最も生産力の小なる鉱山の生産物に等しい額たる七十|封度《ポンド》を保有した。しからば第一等の鉱山の資本家の手に残るものの価値は、以前と同一でなければならず、しからざれば彼は資本の通常利潤を取得しないであろう。従って租税として、彼れの一〇〇|封度《ポンド》の中から七〇|封度《ポンド》を支払った後に、残りの三十|封度《ポンド》の価値は以前の七十|封度《ポンド》の価値と同じ大きさでなければならず、従って全百|封度《ポンド》の価値は以前の二三三|封度《ポンド》の価値と同じ大いさでなければならない。その価値はより[#「より」に傍点]高いかもしれないが、しかしそれはより[#「より」に傍点]低くはあり得ないであろう、しからざればこの鉱山ですら採掘されざるに至るであろう。それは独占貨物であるからその自然価値を超過し得るであろう、そしてその際には、それはその超過に等しい地代を支払うであろう。しかしながらそれがこの価値以下であるならば、何らの資金も鉱山に用いられないであろう。鉱山に用いられる労働と資本との三分の一と引替に、スペインは、以前と同一の、またはほとんど全く同一の分量の貨物と交換されるべきほどの金を取得するであろう。この国は鉱山から解放された三分の二のものの生産物だけより[#「より」に傍点]富むであろう。もし一〇〇|封度《ポンド》の金の価値が以前に採掘された二五〇|封度《ポンド》のそれに等しいとするならば、スペイン王の収得分たる彼れの七十|封度《ポンド》は、以前の価値における一七五|封度《ポンド》に等しいであろう。国王の租税の大部分は資本のより[#「より」に傍点]良き分配によって取得されるから、その小部分が彼自身の臣民の負担する所となるに過ぎないであろう。
 スペインの計算書は次の如くなるであろう。

    以前の生産額[#「以前の生産額」に傍点]
 金二五〇|封度《ポンド》、その価値(仮定)…………毛織布一〇、〇〇〇ヤアル

    新生産額[#「新生産額」に傍点]
 鉱山を中止せる二人の資本家により生産さる、金一四〇|封度《ポンド》が以前に交換されたと同一の価値。その大いさは…………毛織布五、六〇〇ヤアル
 第一等鉱山を採掘する資本家により生産さる、一対二・二分の一にて価値騰貴せる三十|封度《ポンド》の金、従ってその現在価値は…………毛織布三、〇〇〇ヤアル
 七十|封度《ポンド》の王への租税、同じく一対二・二分の一にて価値騰貴、従ってその現在価値は…………毛織布七、〇〇〇ヤアル
[#地から1字上げ]一五、六〇〇

 王の受取る七、〇〇〇のうち、スペインの臣民は一、四〇〇を納めるに過ぎず、そして五、六〇〇は、解放された資本によって齎された純利得であろう。
 もし租税が、採掘鉱山についての固定額のものではなくして、その生産物の一定割合であるならば、生産量はその結果として直ちに減少されないであろう。もし各鉱山の産額の二分の一、四分の一、または三分の一が租税として徴収されても、それにもかかわらず彼らの鉱山をして以前と同様豊富に産出せしめるのが所有者の利益であろう。しかしもしその分量が減ぜられずして、単にその一部分が所有者から国王に移転されるに過ぎないならば、その価値は騰貴しないであろう。租税は、植民地の人民の負担する所となり、そして何らの利益も得られないであろう。この種の租税は、アダム・スミスが、粗生生産物に対する租税が土地の地代に及ぼすと想像した影響を有つであろう――すなわちそれは全然鉱山の地代の負担する所となるであろう。実にもしこれ以上もう少しく進められるならば、この租税は、啻に全地代を吸収するのみならず、鉱山の採掘者から資本の普通利潤を奪うこととなり、従って彼はその資本を金の生産から引き去るであろう。もしこれ以上、更にもう少し拡大されるならば、更により[#「より」に傍点]良い鉱山の地代は吸収され、そして資本は更にその上引き去られるであろう。かくて分量は不断に減少され、そしてその価値は高められ、そして吾々が指摘したと同一の結果が起るであろう。租税の一部はスペイン植民地の人民によって支払われ、そして他の部分は、交換の媒介物として用いられる用具の力を増大せしめることによって、生産物の新創造となるであろう。
 金に対する租税には二種類あり、その一は流通している金の実際の分量に課せられるものであり、他方は鉱山から年々生産される分量に課せられるものである。両者は金の分量を減じて価値を騰貴せしめる傾向を有っている。しかしそのいずれによってもその分量が減少せしめられるまではその価値は騰貴せしめられないであろう、従ってかかる租税は、供給が減少せしめられるまではしばらくの間貨幣の所有者の負担する所となるであろうが、しかし終局的には、永続的に社会の負担する所となるべき部分は、地代の減少という形で鉱山の所有者によって、及び、金のうち、人類の享楽に寄与する貨物として用いられ流通用具として取除けられることのない部分の、購買者によって、支払われるであろう。
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    第十四章 家屋に対する租税

(七二)金の他にもまた、急速にその量を減少させられ得ない他の貨物がある。従ってそれに対するいかなる租税も、価格の騰貴が需要を減少させるならば、所有者の負担となるであろう。
 家屋に対する租税はこの種のものである。たとえ居住者に課せられても、それはしばしば家賃の減少によって、家主の負担する所となるであろう。土地の生産物は年々消費されかつ再生産され、そして他の多くの貨物も同様である。従ってそれらは急速に需要と同一水準に齎され得ようから、久しくその自然価格を
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