フ手段である。彼は租税を彼れの地代から差引き、そして彼れの地主をしてそれを支払わしめることは出来ないであろうが、それはけだし彼は何ら地代を支払っていないからである。彼はそれを彼れの利潤から差引かないであろうが、それは、あらゆる他の職業がより[#「より」に傍点]大なる利潤を産出している時に彼が引続き小なる利潤を産出す職業に従事すべき理由はないからである。かくて、彼は租税に等しい額だけ粗生生産物の価格を引上げる力を有つであろうということは、疑問のあり得ぬ所である。
 粗生生産物に対する租税は地主によって支払われることはないであろう。それは農業者によって支払われることはないであろう。それは消費者によって価格の騰貴により支払われるであろう。
 地代は、同一のまたは異る質の土地に用いられた等量の労働と資本とによって取得せられた生産物の間の差違である、ということを想起してもらいたい。土地の貨幣地代と土地の穀物地代とは同一の比例において変動するものではない、ということもまた想起してもらいたい。
 粗生生産物に対する租税、地租、または十分一税の場合には、土地の穀物地代は変動するであろうが、他方貨幣地代は引続き以前と同一であろう。
 吾々が前に仮定した如くに、耕地は、三つの質を有ち、そして等しい額の資本をもって、
[#ここから2字下げ]
第一等地からは一八〇クヲタアの穀物が取得され、
第二等地からは一七〇クヲタアの穀物が取得され、
第三等地からは一六〇クヲタアの穀物が取得されるならば、
[#ここで字下げ終わり]
第一等地の地代は、第三等地と第一等地とのそれの差額たる二〇クヲタアであり、そして第二等地の地代は、第三等地と第二等地とのそれの差額たる一〇クヲタアであろうが、しかるに第三等地は何らの地代をも支払わないであろう。
 さてもし穀価が一クヲタアにつき四|磅《ポンド》であるならば、第一等地の貨幣地代は八〇|磅《ポンド》であり、また第二等地のそれは四〇|磅《ポンド》であろう。
 一クヲタアにつき八シリングの租税が穀物に対し課せられたと仮定せよ。しかる時は価格は四|磅《ポンド》八シリングに騰貴するであろう。そしてもし地主が以前と同一の穀物地代を取得するならば、第一等地の地代は八八|磅《ポンド》、第二等地のそれは四四|磅《ポンド》となるであろう。しかし彼らは同一の穀物地代を取得しないであろう。租税は第二等地より第一等地の負担となる事より[#「より」に傍点]重く、また第三等地よりも第二等地の負担となる事より[#「より」に傍点]重いであろうが、けだしそれはより[#「より」に傍点]大なる分量の穀物に課せられるであろうから。価格を左右するのは第三等地における生産の困難である。そして穀物は第三等地に用いられる資本の利潤が資本の一般利潤と同一水準になるように四|磅《ポンド》八シリングに騰貴するのである。
 この三つの質の土地における生産物及び租税は次の如くであろう。
[#ここから2字下げ]
第一等地、一クヲタア四|磅《ポンド》八シリングで一八〇クヲタアを産す……………………七九二|磅《ポンド》
 差引{一六・三の価値、
    すなわち一八〇クヲタアに対し一クヲタアにつき八シリング}……………七二|磅《ポンド》
 純穀物生産物一六三・七[#「一六三・七」の両側に傍線]                            純貨幣生産物七二〇|磅《ポンド》[#「物七二〇|磅《ポンド》」の両側に傍線]
第二等地、一クヲタア四|磅《ポンド》八シリングで一七〇クヲタアを産す……………………七四八|磅《ポンド》
 差引{四|磅《ポンド》八シリングで一五・四クヲタアの価値、
    すなわち一七〇クヲタアに対し一クヲタアにつき八シリング}……………六八|磅《ポンド》
 純穀物生産物一五四・六[#「一五四・六」の両側に傍線]                            純貨幣生産物六八〇|磅《ポンド》[#「物六八〇|磅《ポンド》」の両側に傍線]
第三等地、四|磅《ポンド》八シリングで一六〇クヲタアを産す…………………………………七〇四|磅《ポンド》
 差引{四|磅《ポンド》八シリングで一四・五クヲタアの価値、
    すなわち一六〇クヲタアに対し一クヲタアにつき八シリング}……………六四|磅《ポンド》
 純穀物生産物一四五・五[#「一四五・五」の両側に傍線]                            純貨幣生産物六四〇|磅《ポンド》[#「物六四〇|磅《ポンド》」の両側に傍線]
[#ここで字下げ終わり]
 第一等地の貨幣地代は引続き八〇|磅《ポンド》すなわち六四〇|磅《ポンド》と七二〇|磅《ポンド》との差額であり、また第二等地のそれは四〇|磅《ポンド》すなわち六四〇|磅《ポンド》と六八〇|磅《ポンド》との差額であって、以前と正確に同一である。しかし穀物地代は、第一等地においては二〇クヲタアから、一四五・五クヲタアと一六三・七クヲタアとの差額たる一八・二クヲタアに、そして第二等地においてはそれは一〇クヲタアから、一四五・五クヲタアと一五四・六クヲタアとの差額たる九・一クヲタアに、減少されるであろう。
 しからば穀物に対する租税は穀物の消費者の負担する所となり、そして租税に比例する程度だけその価値を他のすべての貨物に比較して高めるであろう。粗生生産物が他の貨物の構成に入り込むに比例して、それらの価値もまた、租税が他の原因によって相殺されない限り、高められるであろう。それらは事実間接に課税されることとなり、そしてその価値は租税に比例して騰貴するであろう。
 しかしながら、粗生生産物及び労働者の必要品に対する租税は、もう一つの結果を有つであろう、――すなわちそれは労賃を高めるであろう。人口の原理の人類の増加に及ぼす結果によって、最下級の労賃は決して引続き、自然と習慣によって労働者の支持上必要となっている率の遥か上にあることはない。この階級は決して多額の課税を負担し得ない。従ってもし彼らが小麦に対して一クヲタアにつき更に八シリング支払わねばならず、そして他の必要品に対してあるより[#「より」に傍点]少い比例だけ更に支払わなければならないとすれば、彼らは以前と同一の労賃で生存しそして労働者の種族を維持することは出来ないであろう。労賃は不可避的にかつ必然的に騰貴するであろう。そしてそれが騰貴するに比例して利潤は下落するであろう。政府は、国内において消費されるすべての穀物に対し一クヲタアにつき八シリングの租税を受取るであろうが、その一部分は直接に穀物の消費者によって支払われ、他の部分は間接に労働を使用する人々によって支払われ、そして、労働に対する需要がその供給に比して増加したために、または労働者の必要とする食物及び必要品の獲得の困難が増加して行くために、労賃が騰貴した場合と同様に、利潤に影響を及ぼすであろう。
(五七)租税が消費者に影響を及ぼす限りにおいて、それは平等な租税であるが、しかしそれが利潤に影響を及ぼす限りにおいて、それは偏頗《へんぱ》な租税であろう。けだし、それは地主に対しても株主に対しても影響を及ぼさないであろうからであるが、その理由は、彼らは引続き、一方は以前と同一の貨幣地代を、また他方は以前と同一の貨幣配当を、受取るであろうからである。しからば土地の生産物に対する租税は、次の如く作用するであろう。
[#ここから2字下げ、折り返して3字下げ]
第一、それは租税に等しい額だけ粗生生産物の価格を引上げ、従って各消費者の消費に比例して彼れの負担する所となるであろう。
第二、それは労働の労賃を引上げ、そして利潤を引下げるであろう。
[#ここで字下げ終わり]
 しからばかかる租税に対しては次の如き反対がなされ得よう。
[#ここから2字下げ、折り返して3字下げ]
第一、労働の労賃を引上げそして利潤を引下げることによって、それは不平等な租税であるが、それはけだし、それが農業者や商人や製造業者の所得には影響を及ぼし、そして地主や株主やその他の固定的所得を享受する者の所得を課税[#「税」は底本では「説」]されぬままにしておくからである、ということ。
第二、穀価の騰貴と労賃の騰貴との間にはかなりの時の隔りがあり、その間に労働者は多くの惨苦を経験するであろうということ。
第三、労賃の引上と利潤の引下とは蓄積の阻害であり、そして土壌の自然的|疲瘠《ひせき》と同様の作用をすること。
第四、粗生生産物の価格を引上げることによって、粗生生産物が入っているすべての貨物の価格は引上げられ、従って吾々は一般市場において外国製造業者に平等な条件で対抗し得ないであろうということ。
[#ここで字下げ終わり]
(五八)労働の労賃を引上げ、そして利潤を引下げることによって、それは不平等な作用をするが、それはけだし、それが農業者や商人や製造業者の所得には影響を及ぼし、そして地主や株主やその他の固定的所得を課税されぬままにしておくからである、という第一の反対論に関しては、もしも租税の作用が不平等であるならば、立法府にとっては、土地の地代及び株式からの配当に直接に課税することによってそれを平等ならしめるべきである、と答え得よう。かくすることによって、所得税のすべての目的は、各人の私事に立入りかつ官吏に自由国の慣習と感情とに矛盾する権力を賦与するという忌わしい手段に頼るの不便なしに、達せられるであろう。
(五九)穀価の騰貴と労賃の騰貴との間にはかなりの時の隔りがあり、その間に下層階級は多くの惨苦を経験するであろう、という第二の反対論に関しては、異る事情の下においては、労賃は極めて異る程度の速力をもって粗生生産物の価格に追従し、ある場合においては穀物の騰貴によっては労賃には何らの結果も起らず、他の場合においては労賃の騰貴は穀価の騰貴に先行し、更にある場合においては労賃に対する結果は遅く、また他の場合においては速い、と私は答える。
 常に社会の進歩の特定状態を斟酌して、労働の価格を左右するものは必要品の価格である、と主張する人々は、必要品の価格の騰貴及び下落は、極めて徐々として労賃の騰貴及び下落を伴うであろうということを、余りに即座に同意してしまっているように思われる。食料品の高き価格は、各種各様の原因から起るであろうし、またそれに従って各種各様の結果を生み出すであろう。それは次の如き原因から起るであろう。
[#ここから2字下げ]
第一、供給の不足。
第二、結局においては生産費の増加を伴うべき徐々たる需要の増加から。
第三、貨幣価値の下落から。
第四、必要品に対する租税から。
[#ここで字下げ終わり]
 これら四つの原因は、必要品の高き価格が労賃に及ぼす影響を研究した人々によっては、十分に弁別され分離されていない。吾々はこれらを各別に検討するであろう。
 不作は食料の高き価格を齎すであろう、そしてこの高き価格は、それによって消費が供給の状態に一致せざるを得ざらしめられる唯一の手段である。もしすべての穀物購買者が富んでいるならば、価格は、いかなる程度にまでも騰貴し得ようが、しかしその結果には変りがないであろう。すなわち価格はついに、富める程度の最も少い者がその通常の消費量の一部分の使用を止めざるを得なくなるほど高くなるであろう。けだし消費の減少によってのみ、需要は供給の限界にまで引下げられ得るからである。かかる事情の下においては、救貧法の誤用によってしばしばなされているように貨幣労賃を食物の価格によって強制的に左右するという政策以上に、不合理な政策はあり得ない。かかる方策は労働者に対し何らの真実の救済をも与えるものではないが、けだし、その結果は穀価を更により[#「より」に傍点]以上騰貴せしめることであり、そしてついに彼はその消費を限られた供給に比例して制限せざるを得なくなるに相違ないからである。条理上不作による供給の不足は、有害かつ不賢明な干渉がなければ、労賃の騰貴を伴わないであろう。労賃の騰貴は
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