チている。そして手形の市場価格、すなわち為替相場に影響を及ぼすべき原因は、彼れの関せぬ所である。
もし市場がポルトガルから英国への葡萄酒の輸出にとり有利であるならば、葡萄酒の輸出業者は手形の売手となり、その手形は毛織布の輸入業者かまたは、彼にその手形を売った人かによって、買われるであろう。かくして貨幣がそのいずれの国からも移動する必要なしに、各国の輸出業者はその財貨に対して支払を受けるであろう。相互に何らの直接的取引関係をも有たないのに、毛織布の輸入業者がポルトガルにおいて支払う貨幣は、ポルトガルの葡萄酒輸出業者に支払われるであろう。そして英国においては同一の手形の授受によって、毛織布の輸出業者は葡萄酒の輸入業者からその価値を受取る権限を与えられるであろう。
しかしもし葡萄酒の価格が、葡萄酒が全然英国に輸出され得ないという程度であっても、毛織布の輸入業者は等しく手形を買うであろう。しかしその手形の売手が、それによって彼が終局的に二国間の取引を決済し得る所の出合手形が市場に無いことを知っているから、その手形の価格はより[#「より」に傍点]高くなるであろう。彼は、英国の取引先をして自己が彼に権能を与えた支払の要求に対し支払し得せしめるために、取引先に実際に輸出しなければならないことを、知っているであろう、従って彼は、彼れの手形の価格の中に、彼れの正当にして普通なる利潤と共に、一切の諸掛を請求するであろう。
かくてもし英国宛手形に対するこの打歩が毛織布の輸入に対する利潤に等しいならば、この輸入はもちろん止むであろう。しかしもしこの手形に対する打歩が二%に過ぎず、英国における一〇〇|磅《ポンド》の債務を支払い得るためにポルトガルにおいて一〇二|磅《ポンド》を支払わなければならぬけれども、四五|磅《ポンド》を費した毛織布が五〇|磅《ポンド》で売れるならば、毛織布は輸入され、手形は買われ、そして貨幣は輸出され、ついにポルトガルにおける貨幣の減少と英国におけるその蓄積とがかかる取引を続けるのがもはや有利でなくなるような価格の状態を生み出すに至るであろう。
しかし一国における貨幣の減少と及び他国におけるその増加とは、一貨物の価格に影響するばかりでなく、すべての貨物の価格に影響を及ぼし、従って、葡萄酒と毛織布との双方の価格は英国において高められ、そして双方はポルトガルにおいて低下せしめられるであろう。毛織布の価格は、一方の国においては四五|磅《ポンド》他方の国においては五〇|磅《ポンド》であるのが、おそらくポルトガルにおいては四九|磅《ポンド》または四八|磅《ポンド》に下落し、また英国においては四六|磅《ポンド》または四七|磅《ポンド》に騰貴し、そして手形に対する打歩を支払った後にはその貨物の輸入を商人に誘うに足るほどの利潤を与えないであろう。
各国の貨幣が、有利な物々貿易を左右するに必要である如きかかる分量においてのみ、それに割当てられるのはかくの如くにしてである。英国は葡萄酒と交換に毛織布を輸出したが、それはかくすることによってその産業が英国にとりより[#「より」に傍点]生産的にされたからである。そしてポルトガルは毛織布を輸入し、そして葡萄酒を輸出したが、それはポルトガルの産業は葡萄酒を生産することによって両国にとってより[#「より」に傍点]有利に用いられ得たからである。
(五〇)英国において毛織布を生産するに、またはポルトガルにおいて葡萄酒を生産するに、より[#「より」に傍点]多くの困難があるとせよ、あるいは英国において葡萄酒を生産するに、またはポルトガルにおいて毛織布を生産するに、より[#「より」に傍点]多くの利便があるとせよ、しかる時は貿易は直ちに止むであろう。
ポルトガルの事情には何らの変化も起らないが、しかし英国は、葡萄酒の製造にその労働をより[#「より」に傍点]生産的に用い得ることを見出したとすれば、直ちに二国間の物々貿易は変化する。啻にポルトガルからの葡萄酒の輸出が停止されるばかりでなく、更に貴金属の新しい分配が起り、そして英国の毛織布の輸入もまた妨げられる。
両国はおそらく、それ自身の葡萄酒とそれ自身の毛織布とを造るのが彼らの利益であることを見出すであろう、だが次の奇妙な結果が起ることであろう、すなわち英国においては、葡萄酒はより[#「より」に傍点]低廉になるであろうが毛織布は価格騰貴し、それに対し消費者はより[#「より」に傍点]多くを支払うであろう、しかるにポルトガルにおいては、毛織布と葡萄酒との両者の消費者はそれらの貨物をより[#「より」に傍点]低廉に購買し得るであろう。改良のなされた国においては価格は騰貴するであろう。何らの変化も起らなかったがしかし外国貿易の有利な部門を奪われた国においては価格は下落するであろう。
しかしながらこのことはポルトガルにとり単に見かけの上での利益に過ぎない、けだしその国において生産される毛織布と葡萄酒との分量の合計は減少されるであろうが、英国において生産される分量は増加されるであろうからである。貨幣は二国においてある程度においてその価値を変化するであろう。それは英国においては低められ、ポルトガルにおいては高められるであろう。貨幣で測ればポルトガルの全収入は減少し、同じ媒介物で測れば英国の全収入は増加するであろう。
かくて、ある国における製造業の改良は、世界の諸国民間の貴金属の分配を変更する傾向があるように思われる。それは、改良が行われる国における一般物価を引上げると同時に、貨物の分量を増加する傾向があるのである。
(五一)問題を簡単にするために、私は、二国間の貿易は二つの貨物――葡萄酒と毛織布――に限られるものと仮定して来た。しかし多くのかつ種々なる財貨が輸出入品表にあることは、人の知る所である。一国から貨幣を引去りそれを他国において蓄積することによって、あらゆる貨物は価格において影響を蒙り、従って貨幣の他の遥かにより[#「より」に傍点]多くの貨物の輸出に奨励が与えられ、従ってこのことは、しからざれば起るものと期待すべきほどの大なる結果が二国における貨幣価値に起るのを、妨げるであろう。
技術及び機械における改良の他に、貿易の自然的通路に常に作用しており、かつ均衡及び貨幣の相対価値を乱す所の、種々なる他の原因がある。輸出奨励金または輸入奨励金、貨物に対する新しい租税は、時にはその直接のまた他の時にはその間接の作用によって、自然的物々貿易を紊《みだ》し、かつその結果として、物価を商業の自然的通路に適応させるために貨幣を輸入しまたは輸出することを必要ならしめる。そしてこの結果は、啻に混乱原因が起った国においてのみならず、更にまたその程度は多かれ少かれ、商業界のあらゆる国においても、生み出されるのである。
このことはある程度において、異れる国において貨幣価値の異ることを説明するであろう。それは、内国貨物及び比較的小なる価値を有つものではあるが嵩高《かさだか》の貨物の価格が、他の原因とは無関係に、製造業の栄えている国においてより[#「より」に傍点]高い理由を吾々に説明するであろう。正確に同一の人口と等しい肥沃度の耕地の同一量とを有ち、また同一の農業知識を有つ、二国の中で、輸出貨物の製造により[#「より」に傍点]大なる熟練とより[#「より」に傍点]良い機械とが用いられている国においては粗生生産物の価格が最高であろう。利潤率はおそらくほとんど異らないであろう。けだし労働者の労賃または真実の報酬は両国において同一であろうからである。しかしこの労賃は粗生生産物と同様に、その技術と機械とに伴う利益によって豊富な貨幣がその財貨と交換して輸入される国においては、貨幣においてはより[#「より」に傍点]高く測られるであろう。
これら二国の中、もし一方はある質の財貨の製造に得点を有ち、そして他方はある他の質の財貨の製造に得点を有つとすれば、そのいずれにも多くの貴金属流入はないであろう。しかしもしそのいずれかの有つ得点が他方に甚しく優越するならば、この結果は避け得ないであろう。
本書の前の部分において吾々は、議論の便宜上、貨幣は常に引続き同一の価値を有つものと仮定した。吾々は今や貨幣の価値の通常の変動と全商業界に共通な変動との以外に、貨幣が特定の国において蒙る部分的変動もあることを説明しそして実際(編者註)、貨幣価値はそれが現在しかるが如くに、相対的課税に製造上の熟練に、気候や自然的産物やその他多くの原因に関する利便に、依存するものであるから、ある二国において決して同一ではないことを、説明しようと努めているのである。
[#ここから2字下げ、折り返して4字下げ]
(編者註)原書に to fact とあるのは in fact の誤植であろう。
[#ここで字下げ終わり]
(五二)しかしながら、貨幣はかかる不断の変動を蒙り、従って大部分の国に共通な貨物の価格もまたかなりの相違を免れないであろうけれども、しかも貨幣の流入によっても流出によっても、利潤率には何らの結果も生み出されないであろう。資本は、流通の媒介物が増加されたからとて、増加されないであろう。もし農業者がその地主に支払う地代とその労働者に支払う労賃とが、ある国においては他国よりも二〇%だけより[#「より」に傍点]高く、またもし同時に、農業者の資本の名目価値が二〇%だけより[#「より」に傍点]多くなったとすれば、彼がその粗生生産物を二〇%だけ高く売っても、彼は正確に同一の利潤率を受取るであろう。
利潤は――これはいくら繰返しても繰返し過ぎるということはないが[#「これはいくら繰返しても繰返し過ぎるということはないが」に傍点]――労賃に[#「労賃に」に傍点]、名目労賃でなく真実労賃に[#「名目労賃でなく真実労賃に」に傍点]、労働者に年々支払われる貨幣量ではなくこの貨幣量を得るに必要な日労働数に依存する[#「労働者に年々支払われる貨幣量ではなくこの貨幣量を得るに必要な日労働数に依存する」に傍点](訳者註)。従って労賃は二国において正確に同一であろう。これらの国の一方においては労働者は一週につき十シリングを受取り、他方において十二シリングを受取るとも、それは地代及び土地から得られる全生産物に対して同一の比例を有つであろう。
[#ここから2字下げ]
(訳者註)傍点は編者の施せる所である。
[#ここで字下げ終わり]
製造業がほとんど進歩しておらず、そしてすべての国の生産物がほとんど類似していて、嵩高なかつ最も有用な貨物から成っている所の、社会の初期の段階においては、異れる国における貨幣価値は、主として貴金属を供給する鉱山からのその距離によって左右されるであろう。しかし、社会の技術と改良とが進歩し、そして異る国民が特定の製造業において優越するに従って、距離はなお計算には入るであろうけれども、貴金属の価値は主としてそれらの製造業の優越によって左右されるであろう。
あらゆる国民が単に穀物や家畜や粗布のみを生産し、そして金がそれらの貨物を生産する国またはかかる国を征服している国から取得され得るのは、かかる貨物の輸出によってのみであると仮定するならば、金は当然に、英国におけるよりもポウランドにおいてより[#「より」に傍点]大なる交換価値を有つであろうが、それは穀物の如き嵩高な貨物をより[#「より」に傍点]遠い航海で送ることの費用のより[#「より」に傍点]大なるためであり、また金を金をポウランドへ送ることに伴う費用のより[#「より」に傍点]大なるためである。
金の価値のこの相違は、――または同じことであるが――この二国における穀価のこの相違は、英国において穀物を生産する便益が、土地のより[#「より」に傍点]大なる肥沃度と労働者の熟練及び器具における優越によって、ポウランドのそれよりも遥かにより[#「より」に傍点]以上であっても、なお存在するであろう。
しかしながらもしポウランドが最初にその製造業を改良するならば、もしこの国が、小なる容積中に
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