モ味での量子力學に於ける,最も有力な數學的武器である事が後から解つて來て,今迄堰き止められて居た水が,一時に奔流するやうな勢で凡ての問題が解かれて行つた.
 これで知れるやうに量子力學の發見には,直接に Bohr の手で行はれた部分はない.然し直接間接にこれを生み出す機運を誘致し,又其下にある Copenhagen 學徒の中から發見者並に推進者を出したのであるから,其生みの親と云つても好いであらう.
 §7. 量子論の哲學的考察――相補性*[#「*」は上付き小文字].
 量子力學の威力が至る所に發揮せられている頃,Heisenberg は其物理的内容の闡明について深い研究を行ひ,不確定性原理**[#「**」は上付き小文字]を誘導した.これは Hamilton の所謂正規共軛の二つの量を同時に測定する場合,その各の平均の測定誤差の積は,Planck の常數 h よりは小さくし得ないといふ原理である.これは測定器の不正確に基因するものではなく,量子論的の量に固有の原則的制限であつて,これ以上の正確度を云爲するのは意味の無いことなのである.
 Bohr は之と類似の考へを前から抱いて居つて*
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