ニが何であるかは,言葉その物の本來の意味の示すやうに,これを解説することは出來ないが,人が一つの問題に沒入すると,これに同化融合し,人と自然とが一體になり,自然の根柢を支配する深い法則に觸れるやうになるのではないかといふやうな氣がする.これは Bohr 教授に接したものの受ける印象ではなからうか.
Bohr の原子構造の研究が完成した頃から,對應原理を指針とする古典量子論の無力さが次第に表面に現はれて來た.殊に光の波動説と粒子説(光量子説)との矛盾が,人に甚だしい不滿の念を抱かせた.此點に橋をかけるために Bohr−Kramers−Slater の理論が出た (37)(38)[#「(37)(38)」は上付き小文字].これはエネルギー,運動量の不滅法則が素過程には行はれないで,ただ統計的にのみ成り立つものであるといふ考へを用ひ,波動と粒子とを結ぶ試みであつた.此説は Geiger−Bothe,Compton−Simons の實驗によつて誤であることが明かにせられ,Bohr 自身も既に其前に熱力學的考察からこれは誤つて居ることを覺つて居た.今日から見ればこれは明白であるが當時としてはそん
前へ
次へ
全63ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
仁科 芳雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング