ネに簡單ではなく,殊に Bohr は個々の電子,原子などの行動が,こんなに迄立ち入つて檢討せられるものとは考へて居なかつたやうである.
 此 Bohr の考へは誤ではあつたが,今日から見て興味あることは,今の量子論ではこれと同樣な考へ方が,時間空間の問題に採用せられて居るといふことである.即ち個々の光量子や電子の時間空間に於ける傳播,運動は,これを豫知することは出來ない.只統計的にのみこれを規定し得るものである.即ち Bohr−Kramers−Slater の考へ方は,これをエネルギー,運動量に適用せずして,それと正規共軛の關係にある時間,空間に適用すればよかつたのであつた.こんなことは後から考へると眞に紙一重の差である.
 對應原理の無力を示す事象は,その他色々出て來たが,その中でも Ramsauer 效果及び多重スペクトルなどは著しいものであつた.前者は結局量子力學の發見によつて始めて解かれた問題であるが,後者は電子のスピンによつてその前に闡明せられたのである.此スピンの發見は Goudsmit,Uhlenbeck の二人によつて指摘せられたものである.Bohr は始め雜誌 Nat
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