見たい.我が國の科學が振はない一つの大きな原因は,國民の科學教育が適切を缺いてゐたためであることが強調せられ,今後は特に青少年の科學教育に力を入れねばならぬ,といふことが度々いはれる.これは洵に核心を把んだ意見である.今日までの科學教育はともすれば詰め込み主義に陷つてゐる.これでは子供の持つてゐる想像力を殺してしまふことになる.凡て教育なるものは被教育者に潜在する能力を最大限に發揮するやうに導いてやるのが目的であつて,生徒を型に入れて育て上げるとか,生徒の頭腦を教師の思ふやうに作り上げるとかいふのは決して教育の趣旨ではない.殊に知識を只詰め込んで見た所で,それを活用する能力を殺してしまつては,何の役にも立たない.これは幼少なものの教育については特に必要なことであり,又創意を必要とする科學者の教育について先づ心得べきことである.
例へば教師たるものは,なるべく多くの事柄を教へようとする努力をやめて,生徒自らの獨創力を働かせ自らの理解力を引き出させて,事物の根柢を又核心を把握せしむることに力を注ぐべきである.かくて基本的の事項を體得せしむれば,枝葉の問題は自分で解決することができる.斯樣
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