株式會社科學研究所の使命
仁科芳雄

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 財團法人理化學研究所は大正6年創立せられ,基礎科學の研究とその成果の應用とに盡して來たのであるが,近年の經營方針として,その研究によつて得られた發明特許を實施する多くの會社を設立し,これにより研究所の財政を維持しようと企圖したのである.これは持株會社の性格をもつものであつたから,連合軍總司令部の方針に從い,解體せられてここに滿31年の歴史を閉じることになつた.然し研究所既往の業績は内外の均しく認めるところであり,司令部においても日本の産業復興のため,その研究活動は1日も停止すべからざるものとし,かかる場合に産業界において執られると同じ方法により,これを第二會社として存續せしめることに多大の指導と援助とが與えられて來た.
 然るに財團法人を株式會社に變形するについては特別の法律を必要とするので,特に單獨法として國會を通過した「財團法人理化學研究所に關する措置に關する法律」が昨年11月17日に公布せられ,これに從つて理化學研究所が發起人となり研究に必要な土地・建物・設備などを現物出資して株式會社科學研究所を設立し,會社は舊理研の研究陣容を受けついで去る3月1日をもつて發足したのである.
 然らば科學研究所の使命である産業復興に對する方策はどうであろうか.それは一言にして盡せば,基礎科學の研究とその成果の産業に對する應用である.これは從來も理化學研究所が行つて來たことであつて,純粹の學理の研究を始めとし,これが應用研究,更に進んではその産業化研究を行い,又場合によつてはその成果を實施してある程度の生産をも營むという,極めて廣汎な活動を企圖するものである。元來産業の基礎をなす純學術の研究が深く且つ廣い程,この上に築かれる應用效果の大きいことは周知の事實であつて,今日の産業技術を開拓する新生面が常に純科學にその源泉を發しておることは,例えば原子力の問題を見ても明かである.
 從來の理研はとかく孤立した研究室制度の弊に陷り易かつたのであるが,上述の使命を果たすに當つては,各研究室は有機的に連繋を保ち,一大綜合
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