研究所の實を擧げることに努力しつつある.今日の資源の貧困は産業に多くの隘路を提供しているが,その技術上の難問打開に當つては,研究所の純學理研究者も應用研究者も一體となり,各々その專門的見地から全力を擧げて根本的解決を圖る方針であつて,この點は單なる對症療法に止まるものであつてはならぬ.そして從前よりも一層公共的性格をもつて,産業界一般の相談にあずかることによつて,多少なりとも技術の向上と産業の復興とに寄與したいと思つている.
以上は科學研究所運營の理念であるが,これが一つの會社である限りその經理面を無視することはできない.吾々は自分の額に汗したパンを食べて理想に邁進せねばならぬ.從つて前述の基礎研究,應用研究,産業化研究,及び生産事業の割り振りも,今日の産業界の現状と研究所の經濟状態に即して決めらるべきものである.そして今日としては研究委託費と生産事業の收益とが研究所財政の重要項目をなす以上,これに關連する研究に重點を措くのも當然である.然し將來研究所の經濟が自立した曉は,上記の研究及び事業の比率を適當に調整して,學問の進歩と平和産業の繁榮とに最も有效適切な運營を行うつもりである.(7. ※[#ローマ数字4、1−13−24]. 1948)〔科學研究所〕
底本:「自然 300号記念増刊 総収録 仁科芳雄・湯川秀樹・朝永振一郎・坂田昌一」中央公論社
1971(昭和46)年3月20日発行
※底本は横組みです。
入力:山崎雅人
校正:小林 徹
2005年11月4日作成
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