傷けむとしたり。而かも伯は其の言論の力に依りて、反つて市民の崇拝を鍾めたり。是れ他なし、伯は最も聡慧なる市民の思想を語るの予言者なればなり。伯は好で意見を吐露すれども、敢て異を立てゝ高く自ら標置するの論客にあらずして、輿論の代言者なり。伯は個人的意見の創造者に非ずして、人民の声の写真機なり。是故に伯は精確の意義に於ける英雄に非ず。伯は偉大なる凡人なり。国民の運命を左右せむとする主我的人物に非ずして、国民の運命と倶に進退するの時代的人物なり。維新の三傑と称せられたる西郷、木戸、大久保は、各々維新の大業を以て自己の独力に依りて成したるものゝ如くに思惟したりしやも知る可からず。軍制を改革し、自治制度を制定したる山県侯は、此等の事業を以て自己の創意に出でたりと思惟するも知る可からず。又た憲法を立案したる伊藤侯は、固より議会を開きたるを以て自己の功なりとすべく、露国を征伐する現内閣員は、興国の雄図は我等の手に依て断ぜられたりと思惟すべきは無論なり。然れども大隈伯は、個人の伎倆に重きを置かざるがゆゑに、維新の大業も、法制の改良制定も、議会の開設も、大陸戦争も、其他既往三十余年間に於ける日本の発達進
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