遠く手を英国の倫敦市場に延ばして巧に銀塊相場に従事しつゝあるの事実を伝聞し、頗る其の大胆の財政規模に驚きたりとの説あり。惟ふに是れ或は斉東野人の説たるに過ぎざるべきも、伯の財政が世上の疑問となるを見るに就ても、亦其の生活の如何に贅沢なるやを知るに足るべし。
 伯は啻に門戸を開放して、善く客に接し、人を饗するのみならず、更に善く馬車を飛ばして公私の会合に出席せり。而して伯の往く所、必らず一段の活気ありて場屋に磅※[#「石+(くさかんむり/溥)」、第3水準1−89−18]せり。蓋し総べての雄弁家が皆失敗する場合に於ても、独り伯は弁論演説に於て常に成功するを以てなり。伯は沈黙を守る能はざる人にして、曾て不言実行といへる流行語を冷笑して曰く、言語あるもの必らず実行家にあらずと雖も、実行家にして不言なるものあらず。所謂る不言実行とは、意見もなく自信もなき人物の遁辞のみと。此の断定の正当なるや否やは遽に判ず可からずと雖も、伯が言論を好むの性癖あるは、此の一語に依て之れを察すべし。
 従来伯は其の言論の余りに多きが為に、所謂不言実行を以て自ら任ずる政治家は、伯を称して大言放論家と為し、以て其の信用を
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