総裁たるものは、唯だ政友会の利害を以て進退の凖とせざる可からず、唯だ政友会の主義綱領を保持する限りに於て会員指導の任に当らざる可からず、然るに侯の為す所は、党首たるの責任よりも、寧ろ元老たるの位地に重きを置きて、政府と妥協を私約し、以て専制的に之れを政友会に強ゆるの挙に出でたり、是れ到底忍び得べき所にあらずと。然り、侯は既に自ら公言して、乃公は一身を挙げて政友会に殉ずる能はずといへり、是れ尋常党首の言ふ能はざる所にして、適々以て侯の侯たる所以の本領を見るなり。
 然れども侯は決して他の藩閥者流の如き政党嫌ひの政治家にあらず、政党嫌ひの政治家にして焉んぞ自ら政友会を組織することあらむや。唯だ侯は党首たるには余りに執着心に乏しくして党派の主義綱領を軽視するの傾向あるのみ。凡そ主義綱領といふが如きは、党派あつて始めて現はれたるに過ぎずして、悪るくいへば、源氏の白旗、平家の赤旗といふに異る所なし。赤旗白旗は源平戦争の標幟には必要なりしも、鎌倉幕府の政治家には、何の必要なかりき。固より立憲国の党派は公党にして私党にあるざるがゆゑに、其の主義綱領は、即ち国家に対する公念の発動にして、党派の私意にあ
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