の著者)彼れを論じて曰く、ロバート、ピールは、単純なる理論家にあらず、又た原理原則に拘泥する哲学者にもあらず、彼れは事実を較量するの実際家にして、其の終局の目的は成功に在り。然れども彼れは主義の奴隷たらざると共に、必らずしも主義を軽蔑するものにあらず、彼れは政治的哲学を全能なりとも、若くは無益なりとも信ぜざるがゆゑに、敢て之れを崇拝することなしと雖も、而も之れを尊重せりと。是れ実にピールの人物を正解したる言なり。
 顧みて我伊藤侯の出処進退に視る、侯は多くの点に於て亦頗るピールに似たるものあり。侯は党首としては固より欠点なきの人物にあらずと雖ども、政治家としては、朝野の元老中兎も角も大体に通ずるの士なり。今や侯は桂内閣と政友会とを妥協せしめたるの故を以て、世上の非難攻撃を一身に集中したり。独り反対党の盛んに侯を攻撃するのみならず、侯の統率の下に立てる政友会も、亦動揺に次ぐに動揺を以てして自ら安むぜざるものゝ如し。是れ侯を目して政党に不忠実なりと認めたるが為なり。唯だ此の見解に依りて、尾崎行雄氏は去れり、片岡健吉氏は去れり、林有造氏は去れり、其余の不平分子は去れり。彼等は以為らく、政友会
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