尾崎行雄氏が十数年以来利害苦楽を共にせる政友に別れて、一人の知己を有せざる政友会に投じたる行動の如きは、一個未了の疑問として政界に存在せり。されど余を以て之れを観れば、彼れの行動は極めて単純なる目的に出でたるに外ならじ。有体にいへば、大隈伯よりも伊藤侯を以て自家の栄達を謀るに便宜なりと信じ、進歩党よりも政友会を以て多望の未来を有すと認めたればなり。固より其の観察と判断とは、種々の方面と複雑なる材料を基礎としたるを疑はずと雖も、其の出発点の功名心にして、其の帰着点の栄達に在る可きは、何人も疑ふものある可からず。其の進退条件が政見の異同に関せざるは、彼れが曾つて進歩党に対して何等の提言なかりしを以ても之れを知る可きのみならず、彼れが終始其の心事を秘密にして、一政友にすら真実を語りたることなしいふを聞ても、其の如何なる動機に依りて進退したりしかを察するに足る。
凡功名心に富める政治家は、往々栄達の為に主義政見を一擲するの例少からず。英国現内閣の殖民大臣チヤムバーレーンは、初め急進党として、愛蘭自治論主張者として、チヤーレス、ヂルクの最親なる政友として、愛蘭党首領パーネルの熱心なる弁護者とし
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