一人なりと称せられたる人なり。其志を政界に得ざるや、乃ち身を実業社会に投じて久しく政治的野心を抑損し、随つて侯と彼れとの関係は次第に杳遠と為りつゝありしと雖も、侯の政友会を組織するに及び、成る可く多く旧政友を糾合するの必要あると、渡辺氏と実業社会との間には多少の連絡あるを以て、彼を通じて実業家を招徠するの必要あるとに依りて、殆ど相忘れむとしたる一門下生に復旧を求めて、之を政友会創立委員の一人に指名したりき。長谷場純孝氏の創立委員に加へられたるは、彼れが薩派を代表するが為めにして、彼に取ては寧ろ望外の栄誉なる可し。彼れは思想に於ても、感情に於ても、若くは其の人格に於ても決して伊藤侯に容れらる可き点を有せず。其の容れられたるは、是れ侯が彼れの代表権に重きを置きたる証なればなり。

      (四)帰化したる敵将
 伊藤侯は勉めて各種の要素を収容せむと欲し、敵党の人物と雖も来るものは之を拒まざるの概を示したり。此を以て新を喜び旧を厭ふの軽佻者流、若くは侯の資望勢力に依りて万一の倖進を冀ふものは、争ふて政友会に赴きたり。独り進歩党の領袖として、操守堅固の壮年政治家として議院の内外に高名なりし
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