と斯くの如し。
然るに第四期議会以後、公は伊藤侯と漸く其の政見を異にし、伊藤内閣が第五議会を解散するに及で、公は伊藤侯に対する絶交書ともいふべき『復書弁妄』を発表し、尋で『非解散意見』をも公刊して、断然伊藤侯の政敵たる位地に立つを辞せざりき。其頃公は伊藤侯に呼び付けられて、其の言動の不謹慎なるを叱責せられたることありしを聞けり。而も公は憲法擁護の為めに私情を抑制するの止むべからざるがゆゑに、伊藤侯の喜怒に依りて進退する能はざりしものゝ如し。公は当時の境遇を余に語りて曰く、我れの伊藤侯に反対するは、最大なる精神上の苦痛なりき。何となれば侯は我師父といふべき恩人なればなり。然れども此の苦痛を忍ぶは、公義の命ずる所にして、復た之れを奈何ともすべからずと。非解散意見書中にも亦言へり、現内閣総理大臣伊藤博文伯(当時は伯爵たり)に対しては、私交上寧ろ其の人を徳とする所あり。是を以て政治上の事件に就ても、伯が手際巧みに偉功を奏せむことを祈り、社会の趨勢にして、伯の施設に逆戻するが如きあらば、伯や潔く大丈夫たるの挙措に出で、勇退高踏遂に其の徳を傷けず、流石は維新元勲の言動、凡庸政治家の企及すべからざ
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