首相の無責任を攻撃して毫も仮藉する所なきの故を以て、在野の党人は自然に公と相接近すると共に、伊藤内閣は公を認めて侮るべからざるの強敵と為せり。然れども余の始めて見たる近衛公は、極めて平允端懿なる貴公子なりき。其の言動は固より尋常※[#「糸+丸」、第3水準1−89−90]袴者流と同じからずと雖も、漫に気を負ひ争を好むの士に非ずして、極めて真面目なる、極めて沈着なる政治家なりき。
 尋で第六議会復た解散せらるゝや、公は再び非解散意見と題するものを『精神』の号外として発表し、公然伊藤内閣に宣戦状を贈りたり。其の末文に言へるあり、曰く要するに伊藤内閣の信任し難き事実は、天下の耳目に彰々として現はれ来れり。而して解散の結果として、将に来るべき総選挙の紛擾は国民の心を痛ましめ、国民の財力を費さしむること極めて大ならむとす。想ふに現内閣の言動は、今後依然として今日の如くならむ。今日の言動を以て国民の信任を全うせむと望むが如きは、断※[#「さんずい+(広−广)」、第3水準1−87−13]に棹して海洋に浮ぶの目的を達せむとするに均し。国民は斯る内閣の言動を是認せざるべし。既に現内閣の言動を是認せずとせば
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