に於て多少伊藤侯と見を異にするものあるも、敢て成敗を賭して自家の所信を徹底せむとするの勇気ありとも見えず。是れ終に伊藤侯の政党組織を承認せざるを得ざる所以なり。侯は又旧自由党の熱心なる主張を排し、故らに党名を採らずして会名を用いたるは、識者より見れば、殆ど児戯に類すと雖も、是れ一は党と称すれば自由党の変名なるが如き嫌あると、一は全く既成政党の組織を踏襲するを欲せざる為なる可し、其の宣言及綱領を発表するに侯の単名を以てして、何人をも之れに加へざるは、是れ侯の最も意を用いたる所にして、其の理由は次の二点に帰着すべし。曰く立憲政友会は伊藤侯の創立したるものなれば、其の存廃を決するは伊藤侯の自由意思にして、何人も之れを掣肘するを得可からず。曰く宣言及び綱領は侯の単意に成りたるものなれば、之れを修正変更するは侯の独裁たる可く、随つて立憲政友会に入るものは徹頭徹尾侯に盲従し、何人も侯に容喙するを許さゞる是れなり。此の推測の正当なるは、政友会発会式の日に発表したる会則を一読せば更に明白なり。其の会則に拠れば、総務委員幹事長以下の選任より、大会、議員総会等の召集まで、一切総裁の権能に属すること、恰も文
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