首領は、何時其の廃黜する所と為るを知る可からず。苟も一たび侯の指導行はれざる場合と為れば、侯は板垣伯と同一運命に遭遇するか、然らざれば自ら脱党の挙に出でざる可からず。主権自由党に存すればなり。第五旧自由党の政綱主義及び組織は、総べて侯の理想と合致せず。之れを改造せむとすれば、其の全部を破壊せざる可からず。寧ろ新政党を創立するの便宜なるに如かむや。是れ侯が旧自由党に入るを避けて、別に立憲政友会を発起したる所以なり。
侯が新政党を組織するに付ては、頗る経営惨憺の苦心を費やし、之れに着手するの前、先づ藩閥元老の承認を求むるの手段を執りたり。井上伯は政治上の主義に於てよりも、寧ろ私交上の関係に於て伊藤侯の政党組織に同情を表し、以て一種の任侠的援助を侯に与へたりと雖も、他の藩閥元老は、中心実に侯の政党組織を喜ばざりしに拘らず、猶ほ強て之れを表面より妨害したるものなかりしが如し。葢し藩閥元老の意気漸く衰へて、復た自ら今後の難局に当らむとするの抱負あるものなく、而して現に内閣の首相たる山県侯の如きも、最近二年間の経験に依りて、到底政党の勢力を無視する能はざるの趨勢を認識したれば、たとひ憲法上の解釈
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