もなく政友会の組織なればなり。侯は曾て超然主義の政治家なりき。今や侯は其の宿見を抛棄して自ら政党を組織せり。是れ侯の歴史に一大段落を作りしものに非ずや。唯だ侯が淡泊に旧自由党に入らずして、別に自家の単意に依りて政友会を発起したるは、稍々狭隘自重に過ぎたるの嫌あれども、是れ寧ろ侯の老獪のみ。
曩に旧自由党総務委員が伊藤侯を大磯に訪ふて、侯に入党を勧め、以て全党指導の位地に立たむことを請ふや、侯は更に熟考の必要ありと称して即諾を与ふるに躊躇したりき。余を以て其の心事を推すに、第一歴史あり情実ある既成政党に入るときは、勢ひ自家の自由手腕を拘束せられて、十分其の意見を行ふこと能はざる恐れあり。第二旧自由党には政敵多く、特に侯の政友は侯と倶に旧自由党に入るを好まざりし事情あり。第三旧自由党は、当時局面展開を唱へて山県内閣と提携を絶ち、随つて事実上山県内閣に反対する態度を執りしを以て、若し伊藤侯にして此の際旧自由党に入りて之れを指導するに至らば、是れ恰も政権争奪の野心を表示するに同じく、山県内閣の手前、甚だ面白ろからず。第四旧自由党たとひ侯を首領として忠実なる服従を誓ふも、他の為に迎立せられたる
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