を保つが為に、将た局面を展開して政界を一新せむが為めに茲に謹で閣下の辞職を勧告す、閣下果して我輩の言を納るれば、是れ独り閣下の利益のみならず、又国家の利益なり、閣下幸に之れを諒せよ。(三十年四月)

     山県公爵

 現代日本に於て最も秘密多き人物は、恐らくは山県公爵なるべし。彼れの性格、伎倆、及び政策は、伊藤公爵若くは大隈伯爵等の如く分明に表現せられざるが故に、国民は唯だ彼を政治界の一勢力として其の存在を認識する外、復た彼れの真価に就て何等の知る所なきものに似たり、例へば世人は彼を称して最も頑固なる保守主義の代表者と為すも、彼れの保守主義の如何なるものなるかを精確に領解するもの果して之れあるや。世人は又彼を目して政党内閣制に反対する政治家と為すも、誰れか果して彼れの口より公然たる非政党内閣論を聞きたるものありや。或は彼を陰険といひ、或は彼を圧制家といふも、其の批判は果して事実を根拠としたるものなりや。頗る疑はし。然れども彼れの真価の知られざる処は、是れ却つて彼れの真価の存する処にして、彼れが伊藤公爵大隈伯爵等と相対峙して、別種の勢力を有する所以亦此にあり。
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