閣を組織してより既に二会期の議会を通過し、兎も角も比較的長期の内閣の首相として今日まで無事なるを得たり、此の点よりいへば、閣下は藩閥元勲中最も幸運なる位地に立てりと謂ふ可し、夫れ賢者は名を惜み、哲人は身を保たむことを思ふ、閣下はたとひ政治家たるの技倆なきも、賢哲の用意を為すに於て未だ必らずしも晩れたりと謂ふ可からず、閣下何ぞ之れを熟計せざる※[#白ゴマ、1−3−29]且つ夫れ閣下は蒲柳の質、気力亦頗る衰へたり、曾てサーベル政略を以て党人に畏怖せしめたるもの今は党人を迎合して僅に一時の苟安を謀るに汲々たり、顧みて内外の形勢を観れば、国務益々多端にして、総て盤根錯節を断つの利器を待つものたらざるなし、閣下たとひ愛国の至情自ら禁ずる能はざるものあるも閣下の健康到底之れに堪へざるを奈何せんや、想ふに閣下亦必ず負荷の難きを知らざるに非らじ、之れを知つて尚ほ且つ自から断ずる能はざるは、唯だ属僚に対する関係より脱離するを得ざるが為めのみ、さりながら閣下にしても苟も此般の情実に拘束して自ら断ずる能はざれば、閣下は終に属僚に誤まられて末路必らず悲む可き運命あらむ、乃ち我輩は閣下の名誉の為めに、閣下の晩節
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