後世史家の評論に任かす可き者に非ず、何となれば閣下の議院政略より岔出したる毒泉は、現に閣下の司配せる各部の行政体統をも膿壊せしめたればなり、夫れ議会の腐敗は、主として議会自身の責任に存すといふを得可きも、行政体統の膿壊は、閣下直接に其の責任を負はざる可からず、是れ即ち政治道徳上の一問題に非ずして、直に内閣大臣の実際的責任問題なり。
 例へば横浜埋立事件に就て之を見るも、閣下を弁護するものは、是れ首相の知る所に非らずして粗放なる西郷内相の失体といひ、西郷内相を弁護するものは、亦是れ内相の知る所に非ずして、小松原内務次官の非行なりといふ、抑も知ると知らざるの争点は自ら別問題なり、乃ち閣下の責任は決して知覚欠乏の故を以て解除せらるゝを得ず、事実たとひ小松原次官一個の非行に属すとするも、之れに対する匡救の責任は懸つて閣下の肩上に在らずや、然るに閣下は曾て何等の処置を此の間に取らざりしのみならず、其の関係者の一方に自由党領袖星亨氏あるが為に、一方は閣下の畏敬せる西郷内相たるが為に、遂に躊躇して手を下だすを憚りたるは首相たるの威厳を失墜したるものに非ずして何ぞや更に地方議員選挙干渉に就て之れを見る
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