に、母は喜び極まつて泣き、以後決して罪悪を犯さずと誓へりとぞ。又た一乳児あり、声を発する毎に臍凹み頭脳は腫張して頗る畸形なりき。其の病源は不明なれども兎に角之れを引取りて養育したるに、頭脳は常態に復し、臍部の奇観も止みたりき。
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彼れは※[#「口+荅」、第4水準2−4−16]然として笑へり。冷やかなる笑に非ずして温かなる笑なりき。彼れは遽に容を改め、極めて荘重なる弁舌を以て犯罪を天性に帰するの理論を否定せり。彼れは犯罪を以て人生の不平に原本すと為し、家に財なく、身に技術なきは不平の由て起る所なるがゆゑに、犯罪を減少せむとせば、国家は貧民に教育を与へて、生活に必要なる技術を授けざる可からずと熱心に論じつゝ、静に椅子を離れて伝鈴を押せり。彼れは響に応じて来れる書生に、婦人同情会規則を持参す可きを命ぜり。斯くて一葉の印刷物を記者に渡たしたる彼れは、稍々其の顔面を曇翳を浮かべつゝ、
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真の慈善家は大抵資財なく、富めるもの多くは慈善家にあらず、儘ならぬ世や。
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と語り終りて座に復せり。

      其四 彼れの人格
 記者が
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