彼れに於て復た何の遺憾あらむ。况むや生きて第一期の時代事業を完成し、併せて其の当初の理想を実現したる政党内閣をも、一たびは大隈伯と聯合して之れを組織したることあるをや。彼れは第一期の時代事業に竭くす可かりし精力を余まして、之れを第二期の事業にも使用したるがゆゑに、是れ所謂る強弩の末、魯縞を穿たざるもの。記者は寧ろ彼れが退隠の遅かりしを惜む。
 顧ふに旧自由党は、彼れと与に産まれて、彼れと与に成長したるものなり。彼れ一旦悟る所あるや、何の惜気もなく、無代価にて之れを伊藤侯に譲与したりき。是れ人情の忍び難しとする所なれども、彼れに在ては疑ひもなく明哲の処置たり。蓋し今の政治界に立つものは、皆権勢利禄を得むことを目的とし、此の目的を達するに最も都合善き首領を求めて之れに頼らむと欲するものに非るなし。而も彼れの位地及び人物は此の点に於て党人の望を繋ぐに足らざるを如何せむや。彼れが人情の忍び難きを忍びたるは、更に之れよりも一層忍び難きものあるを恐れたればなり。

      其三 社会改良
 円卓を隔てゝ彼れと語れる記者は、如上の理由に依りて彼れの退隠に同情を表するを禁じ得ざりき。此に於てか彼れ
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