伯は多数の信服者を作る能はざりしも、其少数信服者は悉く小陸奥宗光なり。否らざるは陸奥宗光の熱心なる崇拝者なり。唯だ夫れ輪廓の余りに瞭然たる人格は、其の実質概して狷介にして余裕なし。偉大なる人格の第一特色は、受納力の宏博なるに在り。概括力の富贍なるに在り。統率力の優勝なるに在り。此の点に於て大隈伯は独り当代に雄を称し得べく、陸奥伯の極めて個人的独尊的なると頗る其の人格を異にせり。大隈伯は政治に於てデモクラシーを主張すると同時に、其趣味に於てもデモクラチツクなり。之れに反して陸奥伯は、政治の原則としては亦均しくデモクラシーを信ずと雖も、其の趣味は或る意義に於て全くアリストクラチツクなり。彼は凡俗を好まず、又凡俗の好む所を好むこと能はず。彼は凡俗と天才との間には踰ゆべからざるの鴻溝あるを信じ、滔々たる凡俗は、到底天才者の頭脳を領解する能はずと思惟せり。若し大隈伯を以て思想界のトルストイとせば、陸奥伯は稍々ニイチエに類似すと謂ふべし。ニイチエの奇崛独聳は嶄然として時代の地平線を超越したるものありと雖も、終にトルストイの感化の偉大なるに及ばざるなり。陸奥伯の大隈伯に於けるは、猶ほニイチエのトルス
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