伯の豺目狼視に触るゝを好まずして自ら伯と親まざるに至る。是を以て伯には独り個人的能力の伯を重からしむるものありて、国民に対しては殆ど何等の感化をも及ぼしたるものなかりき。伯は曾て伊藤内閣と自由党との連鎖たることありしも、若し伯をして自由党統率の任に当らしめば、到底星亨の為し得たりしものを為し得ざりしならむ。伯或は政党の謀主たるを得たらむも、理想的党首の器は之れを伯に望むべからず。伯は智力の輪転機なり。満身総べて是れ智力にして、其の道徳も、其の勇気も、其の感情も皆智力を以て指導せらる。故に伯に在ては智力と一致せざる道徳は愚なり、智力より生ぜざる勇気は暴なり、智力に伴はざる感情は痴なり。真の道徳、真の勇気、真の感情は智力を本位としたるものにして、智力は真なり、美なり、善なり、絶対的尊貴なり。故に伯は智者を服すれども、勇者を服する能はず、血性家を服する能はず。是れ伯の勢力圏の甚だ狭かりし所以なり。
 然れども伯の智力本位は、其の人格の色彩輪廓を瞭然たらしむるを以て伯と相見るものは伯に於て一の偽善を認めず、心々直に相印するの感を生じて、伯に信服するものは恰も宗門的関係を胥為するに至るべし。故に
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