を控制するの術数を施したるは、亦歴々として認む可きものあり※[#白ゴマ、1−3−29]試みに其一二を言はむか。
 侯は明治十四年、大隈伯と相約して、十六年を以て国会開設の議を奏請せむとしたりき※[#白ゴマ、1−3−29]是れ国会に依りて藩閥を控制するの意より出でたるに非りし歟※[#白ゴマ、1−3−29]其計画未だ成らざるに破れて、藩閥の為めに謀叛を以て擬せらるゝに及び、侯は翻然として其計画を中止し、独り大隈伯をして之れが犠牲と為らしめたるは他なし、是れ唯だ成敗の勢を悟りて、急遽の改革を不利と認めたるに由るのみ※[#白ゴマ、1−3−29]藩閥を維持するの必要を信じたるが為に非ず。尋で明治十八年官制を改革して、文治組織と為し、官吏登庸法を制定して、選叙を厳にしたる如き皆主として藩閥を控制するの意より出でずむんばあらじ※[#白ゴマ、1−3−29]世間或は侯が総理大臣を以て宮内大臣を兼摂したる当時の位地を評して曰く、是れ侯が信用を宮中に固めて、自家の権勢を保全するの秘策なりと※[#白ゴマ、1−3−29]夫れ然り然りと雖も、此秘策は国民に対して圧制政治を行ふの準備に非ずして、亦実に藩閥を控制するの意に外ならざるが如し※[#白ゴマ、1−3−29]之れを要するに侯の施設は、大抵藩閥と利害を異にするものたるに於て、藩閥者流は漸く侯に慊焉たらざるを得ざるに至り、其結果として所謂る武断派なるもの起り、而して山県内閣と為り、而して松方内閣と為り、終に選挙干渉に失敗して、藩閥大に頓挫したると共に、伊藤侯復た出でて内閣を組織したるは第四議会将に召集せむとするの時なりき。
 第二伊藤内閣組織せらるゝや、侯は窃かに故陸奥伯の手を通じて自由党と提携するの端を啓き、日清戦争の後に至て終に公然提携の実を挙げ、板垣伯に内務大臣の椅子を与へて、一種の聯立内閣を形成したりき※[#白ゴマ、1−3−29]是れ一は議院操縦の必要より来れるものなる可きも、其主要の目的は、実に藩閥を控制せむとするに在りしや疑ふ可からず※[#白ゴマ、1−3−29]此を以て最も伊藤内閣に反感を抱きしものは、藩閥武断の一派にして、彼の藩閥の私生児たる吏党が、民党と聯合して極力伊藤内閣の攻撃を事としたるは、適々以て其由る所を察し得可し※[#白ゴマ、1−3−29]或は伊藤内閣が二囘までも議会を解散したるの挙を非立憲的と為して、大に之れを論責するものあり※[#白ゴマ、1−3−29]余も亦敢て侯の解散手段を賛するものに非ずと雖も、是れ勢の致す所にして侯の本意には非らず※[#白ゴマ、1−3−29]若し当時の民党より之れを観れば、侯が解散してまでも内閣を維持したるは、単に民党を苦めたるに似たりと雖も、其実之れが為めに最大失望を感じたるものは、寧ろ藩閥及び藩閥を助くるの吏党にして、民党の為めには、解散は却つて幸福なりき※[#白ゴマ、1−3−29]何となれば、侯にして若し解散の代りに辞職を行はゞ、侯の後を受けて内閣を組織するものは、必らず民党に非ずして藩閥の武断派なる可ければなり※[#白ゴマ、1−3−29]之れを聞く、第二伊藤内閣の将に成らむとするや、陸奥伯其親近に語て曰く、民党たるものは宜しく其挙動を慎み、漫に吏党の激論に煽動せられて、我れより解散を求むるの愚を為す可からず※[#白ゴマ、1−3−29]是れ民党の不利益なりと※[#白ゴマ、1−3−29]則ち伯が伊藤侯の謀士として自由党と提携せしめたるも、其意の藩閥控制に在るや論なきのみ、伊藤侯が藩閥を利用すると共に、又之れを控制せむと勉めたるは既に斯くの如し※[#白ゴマ、1−3−29]故に其信任する所の人物も、亦大抵藩閥に敵視せらるゝものか、若くば藩閥以外の出身者ならざるなく、例へば、故陸奥伯の如き伊東末松両男の如き、渡辺子金子氏の如き、以て見る可し※[#白ゴマ、1−3−29]果して然らば、今囘の大英断が亦藩閥打破の目的より出でたると謂ふも豈余が一個の臆断ならんや。

      未定数
 伊藤侯は既に藩閥を打破して旧勢力と全く分離せり※[#白ゴマ、1−3−29]知らず侯の未来は如何※[#白ゴマ、1−3−29]一見せば侯の現在の位地は、孤立の二字を以て、善く之れを説明するを得可し※[#白ゴマ、1−3−29]侯は旧勢力と分離して、未だ新勢力を発見せず※[#白ゴマ、1−3−29]曾て侯と提携したる自由党は、今や憲政党の名の下に抱合せられて、侯と反対の方面に立ち、而して侯に依て政党を組織せむとするものは、唯だ憲政党の勢力に辟易して殆ど為す所を知らず※[#白ゴマ、1−3−29]侯の現在の位地は実に孤立なりと謂ふ可し※[#白ゴマ、1−3−29]されど余を以て之れを観るに、侯の位地は未定数にして必らずしも孤立ならず※[#白ゴマ、1−3−29]憲政党は大なりと雖も、其組織未だ堅確
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