ならず、其主義未だ明白ならざるに於て、一朝変を生ずれば、更に如何なる現象を生出せざるも保す可からず※[#白ゴマ、1−3−29]否其分裂の機は漸く※[#「にんべん+福のつくり」、第4水準2−1−70]促し来れり※[#白ゴマ、1−3−29]憲政党一たび分裂すれば、旧自由党が再び侯を擁するの必要あるに至るは自然の情勢にして、侯は唯だ其機会の到来するまで孤立の位置に在るのみ。
凡そ今日の所謂る政党なるものは、主義政綱に依りて進退するに在らずして、唯だ利害に依て分合するものたるに過ぎず※[#白ゴマ、1−3−29]伊藤侯が位地の未定数なるは、蓋し政党の主義政綱未だ分別せざるが為めなり※[#白ゴマ、1−3−29]顧ふに政治家の世に立つや、先づ自ら其主義政綱を発表して、同志を天下に求むる固より可なりと雖も、今日の如く未だ主義政綱を以て争ふの進境に達せざるの政界に在て、自ら主義政綱を発表して同志を天下に求むるは、恐らくは侯の迂濶とする所なる可し※[#白ゴマ、1−3−29]况むや侯は大隈板垣伯等の如く、政党上の歴史を有せざるが故に、今日直に政党を組織せむとする如きは、到底言ふ可くして行ふ可からざるの談なるに於てをや※[#白ゴマ、1−3−29]若し侯の中心の冀望を言はゞ、此際永く、政界を退隠せむと欲するに切なるやも知る可からず※[#白ゴマ、1−3−29]されど侯を叢囲せる門下生は、决して侯の退隠を許さゞるの事情あり※[#白ゴマ、1−3−29]侯は此等の門下生の為めに、勢ひ再度の出馬を為さゞる能はざるは無論なるを以て、侯の清国より帰朝するの日は、乃ち政界復た一変動を見るの時なりと知らざる可からず※[#白ゴマ、1−3−29]侯の運動の妙所は、虚無縹緲の間に於て、巧みに最後の勝利を制するに在り※[#白ゴマ、1−3−29]侯が明治十四年来藩閥控制の術数を用いたるも、世間啻に其然るを知らざるのみならず、藩閥自身も亦然るを知らずして独り其術中に陥りて怪まず※[#白ゴマ、1−3−29]侯が自由党と提携したるに及でも、明かに政党内閣を主張せずして而も次第に今日の時局を導くの動機を啓きたり※[#白ゴマ、1−3−29]侯は曾て其持説を確言したることなきも、其実際に施設したる例少なからず※[#白ゴマ、1−3−29]侯も亦一代の政治家なるかな。(三十一年九月)
伊藤侯は党首の器なるや
伊藤侯が頃ろ政党改造の意見を発表して、既成政党の弊害を矯正せんとするや、侯の機関紙たる『日々新聞』は、侯の目的、模範政党を作るに在りと暗示し、憲政党の機関紙たる『人民新聞』は、侯の位地を論じて、憲政党に入るの侯の志に合ふ可きを諷告したり※[#白ゴマ、1−3−29]侯果して憲政党に入りて其首領たらむと欲する乎。或は既成政党以外、新たに同志を糾合して模範政党なるものを作らむとする乎※[#白ゴマ、1−3−29]是れ恐くは政治的数学の例題ならむ※[#白ゴマ、1−3−29]近かき未来の政局を打算するが為には、先づ此例題を解决せざる可からず。
然れども憲政党及び其他の伊藤崇拝者が、果して能く伊藤侯の人物を領解したるや否や※[#白ゴマ、1−3−29]試に問はむ、侯は党首の器を備へたる人物なる乎※[#白ゴマ、1−3−29]具体的にいへば、侯はグラツドストンたるを得る乎※[#白ゴマ、1−3−29]サリスバリーたるを得る乎と※[#白ゴマ、1−3−29]凡そ党首に最も必要なる資格は、国民を指導して国民を専制せざるに在り※[#白ゴマ、1−3−29]但国民を指導すといふは、国民を煽動するの謂に非ず※[#白ゴマ、1−3−29]衆愚の感情を迎合し、一時の俗論を鼓吹し、己れの信ぜざる所を語り、我が欲せざる所を行ひ、詐謀偽術を挟みて強て多数の好尚に阿ねるは、是れ煽動家の事のみ※[#白ゴマ、1−3−29]余が所謂る党首に非ず※[#白ゴマ、1−3−29]マツヂニー曾て多数政治に定義を与へて曰く、多数政治とは、最も聡慧にして最も善良なる首領の指導に依れる政治なりと※[#白ゴマ、1−3−29]故に党首は其智見判断に於て固より一代に超絶するものたる可く、則ち国民の未だ知らざる所を知り、国民の未だ見ざる所を見るの賢明なる人物ならざる可からずと雖も、此れと同時に、其智見判断を以て、国民の意思を圧服せむとするは、是れ専制家の事なり※[#白ゴマ、1−3−29]余が所謂る党首には非ず※[#白ゴマ、1−3−29]煽動家はモツブの頭領たる可し、政党の首領たるを得ず、専制家は宮廷政治の宰相たる可し、多数政治の宰相たるを得ず。
余は伊藤侯が当今第一流の政治家として、其智見判断固より一頭地を地平線上より抽むずる者あるを認識す。されど侯は政党の首領として、国民を指導するの適才なりや否やと問はゞ、余は容易に之れを首肯する能はず※[#白ゴ
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