は亦当然のみ。之れに反して、政友会は智弁能力の士に富まざるに拘らず、其の主義綱領は進歩党の其れの如くに固定せず、時としては進歩党と均しく消極的に陥ることあるも、指導其の宜しきを得ば、必らずしも消極的政策に同意せしめ難きに非ず。其の淡泊にして与みし易き所以は、却つて其の善導し易き所以たるを見るべく、彼等が比較上政権に接近するの便宜あるは此れが為めなり。
されば進歩党にして党勢を発展せしめむとせば、先づ其の主義綱領をして時勢と適合するものたらしめざる可からず。即ち従来の消極的政策を棄てゝ、断然積極的政策を執らざる可からず。顧ふに彼等の非難攻撃する官僚政治なるものは、固より多少の弊害なきに非ざるべし。其の動もすれば行政機関を過大に拡張して国費の膨脹を顧みざる傾向ある如きは其の一なり。然れども行政機関の拡張は、国際競争より来れる必然の結果にして、到底之れを避けむとして避くべからず。唯だ一方に於て行政機関を必要の程度に拡張すると同時に、一方に於て成るべく国費を有効に使用し、以て濫費の弊なからしむるは、是れ精確なる科学的智識と行政的手腕に俟つべし。無責任なる放言の能く為す所にはあらず。故に進歩党にして改革の意あらば、総理の廃立よりも其の政策の上に一生面を開くの挙あるを急務とせむ。
然れども大隈伯は漸く老ひたり。其の党務に堪ゆるの健康は今後久しきに保つ可からず、若し伯にして進歩党の永久なる繁栄を望むに於ては、一日も早く適当なる相続者を発見するの必要あるべきは無論なり。苟も適当なる相続者を発見するに於ては、伯亦必らず自ら喜で総理の位地を退かむ。唯だ今日未だ伯の相続者として耻しからざる首領的人物を発見する能はざるのみ。是れ党員の苦悩煩悶する所たるのみならず、又総理大隈伯の苦悩煩悶する所たるべし。(三十九年五月)
党首を辞したる大隈伯
一月第三日曜日に開きたる憲政本党大会は、総理大隈伯の思ひ掛なき告別演説を以て、沈痛無量なる光景の間に閉ぢられたりき。伯は予告なくして突然辞職の述懐を為したるがゆゑに、内心伯の退隠を希望し居たる儕輩も、事の意表に出でたるに錯駭して、頗る挙措を失したるものゝ如し。顧ふに伯が辞職を申出でたる所以は、単に一身上の自由を欲すといふに過ぎずして、他に特別の理由あるを認めざるも、深く其の語る所を玩味せば、今日伯をして自ら辞意を表明するに至らしめたる動機の存するもの固より之れなきに非ず。
伯は一面に於て本党発展の路を開かむが為に総理を辞するを必要なりと唱へつゝ、一面に於ては総理を辞するも决して本党を去らずと断言せり。則ち其の辞職なるものは唯だ形式的退隠たるに止まり、伯の猶ほ間接にも直接にも本党との関係を絶つの意なきや無論なるべし。且つ伯が政治を生命と為し、総理を辞すとも决して政治的活動を中止せずと言明したるを見れば、伯の辞職を求むる理由は殆ど解すべからず。伯は本党に総理たるも総理たらざるも旧に仍りて政治的活動を継続せむとす。知らず本党総理として正々堂々政治的活動を継続するの何故に本党に利あらずとするか。此の点よりいへば伯は無意義の辞職を申出でて、徒らに党員の感情を惑乱せしめたるに似たるも、実は伯の心奥に感慨自ら禁ぜざるものあり、乃ち名を辞職に藉て一大警告を党員に与へむと欲したるに外ならじ。
伯は党則改正党勢拡張に関する大会の討論を評して、本党の大活動と為し、口を極めて英気の勃々たるを激賞したりと雖も、今其の所謂る党則改正なるを見るに、従来の首領政治を廃せむが為に、之れに代ゆるに合議制度を以てしたるのみ、是れ総理大隈伯に対する信任欠乏の投票に非ずして何ぞや。伯は自ら謙遜して党勢の振はざる原因を伯の微力為すなきに帰すと雖も、本党の僅に存在するを得るは、唯だ大隈伯あるを以てなり。伯は本党に何の負ふ所なきも、本党は全く伯の理想に依て活けり。若し本党より伯の理想を抜き去らば、本党の実体は次第に腐敗して終に※[#「さんずい+斯」、第3水準1−87−16]滅するの時あらむ。又何ぞ党勢の盛衰を言ふの遑あらむや。然るに今や本党は、大隈伯の理想に叛逆するものを以て多数を占め、其の結果は直に党則改正の上に現はれて、首領政治の組織を破壊せむと企てたり。是れ本党自ら衰亡に進むの凖備のみ。伯豈今昔を俯仰して感慨に堪へむや。
抑も大隈伯の理想は、国民の代表機関を完全に運用して、英国風の憲政を日本に扶植せむとするに在り。伯は曾て此の理想によりて改進党を組織し、進歩党を指導し、又現に憲政本党を率い来たれり。伯は固より単純なる批評家を以て自ら居らむとするものに非ざるべく、苟も其の懐抱する理想にして実現するを得るの成算あるに於ては、進むで政権に接近するも亦敢て避くる所に非ざるべし。然れども伯は政権に接近するの前に於て、先づ国民の輿望を要求せり
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