−3−29]勢力の統一とは何ぞや、一個の首領ありて一党の勢力を集中する是れなり、然るに憲政党には勢力の統一なくして、進歩自由両党の旧形依然として実存し、随つて其内閣は勉めて両党の均勢を保持するの組織法より成れり※[#白ゴマ、1−3−29]啻に内閣に於て然るのみならず、次官以下の属僚までも、其配置は一に両党固有の勢力を均分せんことを目的と為し、必らずしも適材を挙ぐるを以て方針と為さゞるは、其形迹歴然として観る可し※[#白ゴマ、1−3−29]是れ豈憲政党に中心なく、又勢力の統一なきが為ならずや。
 故に現内閣は、形式に於ては憲政党の内閣なりと雖も、其実質に於ては則ち、進歩自由両党の聯立内閣なりと謂はざる可からず、唯だ夫れ然り、此を以て大隈伯はたとひ現内閣の総理たるも、憲政党は未だ大隈伯を中心とせざるの事実あるに於て、現内閣は決して世人の予期したる如き理想的大隈内閣に非るは、復た言ふを俟たず、然らば理想的大隈内閣とは何ぞや※[#白ゴマ、1−3−29]名実共に大隈伯を首領としたる党与に依て組織せらるゝもの是れなり、蓋し伯も亦曾て此冀望を抱て多数の俊髦を糾合したること此に年あり※[#白ゴマ、1−3−29]其徒沼間守一、小野梓、藤田茂吉等諸氏は、既に故人に属すと雖も、尚ほ矢野文雄、島田三郎、犬養毅、尾崎行雄の四氏旧に仍て意気軒昂たるあり、加ふるに鳩山和夫、大石正巳、加藤高明等の如き、伯と深縁あるもの亦之れなきに非ざるが故に、其多士済々たる、以て優に理想的大隈内閣を組織するに余りあらむ※[#白ゴマ、1−3−29]然るに現内閣中純然たる大隈派と目す可きものは、僅に尾崎、大石の両氏あるに過ぎずして、其他の閣員は、皆大隈伯と政治上の経路を異にしたる人物なり、是れ豈世人の予期したる如き大隈内閣ならむや。

      大隈伯の同化力
 第一次の大隈内閣は、不幸にして世人の理想に描かれたる大隈内閣にはあらじ※[#白ゴマ、1−3−29]伯亦自ら之を認識して、之れを名くるに一種の聯立内閣たるを以てす※[#白ゴマ、1−3−29]されど現内閣をして純然たる大隈内閣たらしむると否とは、実に伯の同化力の大小如何に在り※[#白ゴマ、1−3−29]同化力とは何ぞや、種々の意見議論を鎔解して、悉く之れを自己の模型に鋳合せしむるを謂ふ※[#白ゴマ、1−3−29]顧ふに進歩自由の両派は従来政敵として氷炭相容れざ
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