治家の利益たるを知らざる可からず※[#白ゴマ、1−3−29]伯は他の政治家に比して割合に変説少きに拘らず、伯の政敵は、主として伯の変説最も著しきを言ふ※[#白ゴマ、1−3−29]是れ他の政治家は意見を発表すること少なきが故に、其変説世に知らるゝこと少なく、伯は意見を発表すること多きが故に、其言質を執らへらるゝこと随て多きのみ。
 されど政治家は道徳家に非ず※[#白ゴマ、1−3−29]苟も国民の利害、国家の公問題と両立せざる意見は、之れを守るも政治家の名誉に非ず、之れを捨つるも政治家の恥辱に非ず※[#白ゴマ、1−3−29]変ず可くして変じ、捨つ可くして捨つ、唯自己の智見と良心とに是れ任す可きのみ※[#白ゴマ、1−3−29]特に国民を指導する党首に於て最も其然るを見る。
 伊藤侯は大隈伯の如く未来の問題を語ること少なく、其語るや大抵過去帳の展読のみ※[#白ゴマ、1−3−29]故に其言質を作ること稀れなる代りに、其発表せる意見は、国民の記憶を喚び起すの力あれども、国民を指導するの生命あるもの甚だ希れなり※[#白ゴマ、1−3−29]是れ亦党首として大隈伯に及ばざり所以なり。
 之を要するに、伊藤侯は政治家としては当今第一流の人物なれども、党首としては大隈伯の対手に非ず※[#白ゴマ、1−3−29]然るに憲政党は侯を誘ふて党首の位地に立たしめむとす※[#白ゴマ、1−3−29]是れ果して憲政党の利益なる乎※[#白ゴマ、1−3−29]侯にして若し憲政党に入らば、憲政党は其組織を一変して、更に侯の理想に依て着色せられたる新政党と為らむ※[#白ゴマ、1−3−29]而して自由主義は専制主義と為り、而して指導者を得る代りに命令者を得む。(三十二年八月)

     立憲政友会の創立及び其創立者

      (一)新組織の政党
 立憲政友会の創立は、確かに政治上の一進歩なり。少くとも近かき未来に於ける局面展開の動力たる可きは、何人も疑はざる所なり。但だ其の組織の果して健全なる発達を遂げ、其実力形貌共に果して能く完全なる政党たるを得可きや否やは、是れ固より前途に横はれる未解の設題たるのみ。余は敢て之が解釈を今日に試みむといふには非ず。
 立憲政友会の創立者を見るに、資望朝野の間に高き伊藤侯以下或は曾て台閣に列したる人あり、或は前日まで一党の領袖たりし人あり、或は敏腕の名ある旧官吏あり、或は地
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