−3−29]試に見よ、会計法の未だ整頓せざるに際して、予算編製の創意を出だしたるものは大隈伯に非ずや※[#白ゴマ、1−3−29]始めて統計事業を成案し、会計検査法を設けて、行政事務の改良を謀りたるものは亦大隈伯に非ずや※[#白ゴマ、1−3−29]伯は曾て紙筆を執りたることなく、算盤を手にしたることなきも、善く複雑なる事実と数字とを記憶して、其解紛按排頗る迅速なり※[#白ゴマ、1−3−29]此点より言へば、伯は大事務家なり※[#白ゴマ、1−3−29]大行政家なり※[#白ゴマ、1−3−29]されど伯の最も偉なる所は、国民を指導するの力量ある是なり※[#白ゴマ、1−3−29]伯は独自一己の意見を有すると共に、雑駁なる国民問題を溶解して、更に之れを清新なる晶形と為すの陶鋳力《クリスタリゼーシヨン》あり、伯は此陶鋳力に依りて、国民の偏見、私情、迷想に属する分子を除却し、以て其醇分を代表するの意見を製造するものゝ如し※[#白ゴマ、1−3−29]是れ自ら党首の器にして、伊藤侯の企て及ばざる所と為す。若し此陶鋳力を以て煽動家の破壊力と同視せば、其謬見や大なり※[#白ゴマ、1−3−29]煽動家は国民の偏見、私情、迷想に投じて之れを死地に陥る※[#白ゴマ、1−3−29]其目的唯だ破壊に在り。例へば猟官熱の熾なるを見れば、直に官吏登庸法全廃を主張する如き、或は議員歳費増加案を提出して腐敗せる人心を収攬する如き、是れ実に煽動家の手段なりと謂ふを得可きも、若し夫れ大隈伯に至ては、曾て此般の言動に出でたることなし※[#白ゴマ、1−3−29]地租増加に反対したるを以て伯を煽動家と為さん乎※[#白ゴマ、1−3−29]市民を誘導して地租増加に賛成せしめたるも亦煽動家なり※[#白ゴマ、1−3−29]否、政治上の論争は総て煽動的なりと謂はざる可からず※[#白ゴマ、1−3−29]亦奇怪ならずや※[#白ゴマ、1−3−29]唯だ大隈伯の長所にして短所なるは、其意見を公言するの大胆に過ぐること是れなり※[#白ゴマ、1−3−29]伯は其語らむとする所を語るに於て頗る無遠慮なり、而も其語る所は大抵未来の問題に関するものたるを以て、其発表したる意見は、往々言質と為りて※[#白ゴマ、1−3−29]反対党に攻撃の材料を供給せり※[#白ゴマ、1−3−29]意見を公言するは政治家の美徳なれども、時としては沈黙を守るの反つて政
前へ
次へ
全175ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
鳥谷部 春汀 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング