公の獨逸學[#「獨逸學」に傍点]に於ける、西園寺侯の佛蘭西學[#「佛蘭西學」に傍点]に於ける、其素養以て相敵するに足り、近衞公の國家主義[#「國家主義」に傍点]に於ける、西園寺侯の世界主義[#「世界主義」に傍点]に於ける、其思想以て相爭ふに足る※[#白ゴマ、1−3−29]而して其名望よりいへば、西園寺侯遠く近衞公に及ばざるは獨り何ぞや※[#白ゴマ、1−3−29]嗚呼是れ才の優劣に非ずして[#「嗚呼是れ才の優劣に非ずして」に白丸傍点]、又徳の高下に由るに非ずや[#「又徳の高下に由るに非ずや」に白丸傍点]。(三十一年三月)
歸朝したる近衞公
(上)
歸朝したる近衞公は、政治社會の未定數として一般に認めらるゝ人なり※[#白ゴマ、1−3−29]從來名士の海外より歸朝するや大抵多少の新觀察を齎らし來りて、國民の聽官に或る音響を感ぜしめざるなし※[#白ゴマ、1−3−29]况むや資望一代に高き近衞公に於てをや※[#白ゴマ、1−3−29]さりながら我れも人も公の歸朝に待ち設けたる問題は[#「さりながら我れも人も公の歸朝に待ち設けたる問題は」に白丸傍点]、公が如何なる新觀察を齎し來りて國民に寄與するや否やに非ずして[#「公が如何なる新觀察を齎し來りて國民に寄與するや否やに非ずして」に白丸傍点]、如何なる新運動を今後の政治社會に試む可きや否やに在りとす[#「如何なる新運動を今後の政治社會に試む可きや否やに在りとす」に白丸傍点]。
余の記憶によれば、公の世界漫遊は、貴族教育の取調を第一の目的と爲し、政治上の觀察は寧ろ第二の目的なりしものゝ如し※[#白ゴマ、1−3−29]蓋し公は現に學習院長として貴族教育の重任を負ひ、而も近來專ら心血を此の方面に注ぐと共に、政治社會に於ける態度の稍々保守に傾きたるは事實に近かし※[#白ゴマ、1−3−29]公は最近數年間に起れる政變に於て[#「公は最近數年間に起れる政變に於て」に傍点]、幾たびか自己の運命を試驗す可き機會に遭遇したれども[#「幾たびか自己の運命を試驗す可き機會に遭遇したれども」に傍点]、公は常に淡然として之れを閑却したるに反して[#「公は常に淡然として之れを閑却したるに反して」に傍点]、獨り學習院の事業に至ては[#「獨り學習院の事業に至ては」に傍点]、燃ゆるが如き改革的精神を以て[#「燃ゆるが如き改革的精神を以て」に傍点]、自ら畫策施設したるもの頗る多し[#「自ら畫策施設したるもの頗る多し」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]斯くの如きは抑も何の感ずる所あるに由る乎※[#白ゴマ、1−3−29]案ずるに、公は日本の貴族に對して、平生匡濟の念禁ずる能はざるを認識するの人なり※[#白ゴマ、1−3−29]是れ他なし、深く貴族院の状態に鑑みる所ありしが爲のみ※[#白ゴマ、1−3−29]夫れ貴族院は、一國の富貴名爵を代表したるものなるが故に、少なくとも其品位を保持するに於て衆議院よりも優るものなかる可からず※[#白ゴマ、1−3−29]而も日本貴族院は不幸にして甚だ悲む可き現象を呈したりき※[#白ゴマ、1−3−29]議會を開設して先づ腐敗の徴候を發したるものは[#「議會を開設して先づ腐敗の徴候を發したるものは」に傍点]、衆議院に非ずして貴族院なりき[#「衆議院に非ずして貴族院なりき」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]衆議院が政費節減民力休養を唱ふれば、貴族院は則ち之れに反對し、衆議院が行政改革情※[#「敝/犬」、86−下−14]打破を唱ふれば、貴族院は則ち之れに反對し、衆議院が新聞發行禁停の廢止を唱ふれば、貴族院は則ち之れに反對し、而して政府の提案、内閣の政略といへば、其是非得失を問はずして一も二もなく之れに盲從したりき※[#白ゴマ、1−3−29]是れ尚ほ可也※[#白ゴマ、1−3−29]貴族院中には、藩閥と國家とを同視して、藩閥を擁護するを以て國家の大事と心得たる議員もありき※[#白ゴマ、1−3−29]皇室と政府とを混同して、政府の頤使を奉ずるを以て皇室に忠義を盡す所以なりと誤解する議員もありき※[#白ゴマ、1−3−29]其最も醜陋なるものに至ては、政府の恩賞を得るを以て唯一の目的とせる議員もありき※[#白ゴマ、1−3−29]而して近衞公、此間に在りて、内は侃諤の正義を主張して、貴族院の品位を維持せむことを努め、外は藩閥の壓力に抵抗して、帝國憲法の神聖を保護せむことを謀りたれども、濁流滔々として殆ど塞ぐ可からず※[#白ゴマ、1−3−29]此に於て乎公は以爲らく、貴族院を匡濟せむとせば、先づ其要素たる貴族の病根を治せざる可からず※[#白ゴマ、1−3−29]而も現代貴族の病根の到底治す可からざるを見るに於て、唯だ宜しく少年貴族を教育して、未來の理想的貴族を作るを任とす可きのみと※[#白ゴマ
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