点]※[#白ゴマ、1−3−29]若し夫れ彼れを粗放の虚才と爲すは、聊か深刻の評たるを免かれず※[#白ゴマ、1−3−29]何となれば彼れは平生大言壯語の癖ありと雖も、彼れは其實一個謹愼の天分あり、責任を重んずるの操守あり、事を苟もせざるの眞面目あり、彼れの大言壯語は、、彼れが大舞臺に立て大作爲を試みんとするの英雄的思想より來る※[#白ゴマ、1−3−29]彼れは草※[#「くさかんむり/奔」、80−上−20]に在りと雖も、其志既に臺閣に存すればなり※[#白ゴマ、1−3−29]彼れが一たび外務參事官の位置を甘むじたるは、是れ豈彼れの本心ならむや、故に彼は之を棄つること弊履の如く夫れ輕かりき。要するに彼の未來は最も多望なるものゝ一なりと謂可し。(三十年十一月)
尾崎東京新市長
▲政友會を脱して、遽かに政治的孤兒となつた尾崎行雄君は、棄てる神あれば助くる神ありで、同情ある東京市民に拾ひ上げられて市長の地位に安置せられた。君は曾て言つたことがある。我輩の生涯は恰も隧道の多い鐵道旅行をするやうなもので[#「恰も隧道の多い鐵道旅行をするやうなもので」に白三角傍点]、時々暗黒の處に差し掛つては[#「時々暗黒の處に差し掛つては」に白三角傍点]、再び前途の光明を認めてヤツト安心することがあると[#「再び前途の光明を認めてヤツト安心することがあると」に白三角傍点]。なるほど考へて見ればさうかも知れない。
▲君がジスレリーを氣取て居るといふのは有名な話であるが、近頃は君をチヤムバーレーンに較べるものがあるやうだ。チヤムバーレーンはバーミンガムの市長と爲つたこともあるから、此の點だけが似て居るやうだが、人格は全く反對で[#「人格は全く反對で」に白丸傍点]、少しも似て居る處がない[#「少しも似て居る處がない」に白丸傍点]。
▲チヤムバーレーンは理想家[#「理想家」に丸傍点]でなくて、實行家[#「實行家」に丸傍点]である。但し何んな政治家でも、苟も政治家であつてみれば、何かの理想を持つて居らぬものはないのである。チヤムバーレーンにも、赤いとか白いとかいふ理想あるに違ひない。しかし彼れは自己の理想よりも更に政治家に大切なものがあるといふことを心得て居る[#「しかし彼れは自己の理想よりも更に政治家に大切なものがあるといふことを心得て居る」に白丸傍点]。即ち時代の精神である[#「即ち時代の精神である」に白丸傍点]。彼れが時代の精神に觸接するの鋭敏なることは[#「彼れが時代の精神に觸接するの鋭敏なることは」に白丸傍点]、殆ど天才の詩人が無意識に自然と觸接するやうな趣がある[#「殆ど天才の詩人が無意識に自然と觸接するやうな趣がある」に白丸傍点]。初めは自治法案に贊成して居つたが、時代精神が漸く大英統一主義に傾いて來たのを察して、潮合を計つて自治法案反對と出掛けた處などは凄い腕だ。此頃は復た保護貿易主義らしいものを唱へて居るが、元來自由貿易策は英國の國是ともいふべき位のもので、自由黨でも保守黨でも此の政策には今が今まで指一本も差しかねたものであるが、彼れが大膽にも之れを變更しようと試みるのは[#「彼れが大膽にも之れを變更しようと試みるのは」に白三角傍点]、全く時代精神の傾向を見拔いて居るからだ[#「全く時代精神の傾向を見拔いて居るからだ」に白三角傍点]。其の目先の早いことは疑ひもなき天才である[#「其の目先の早いことは疑ひもなき天才である」に白三角傍点]。
▲尾崎君はさういふ柄ではない、一體は主觀的理想家であるから[#「一體は主觀的理想家であるから」に白丸傍点]、其の頭腦は一定の型に這入つたやうに固まつて居る[#「其の頭腦は一定の型に這入つたやうに固まつて居る」に白丸傍点]。それであるから[#「それであるから」に白丸傍点]、君の政治論は[#「君の政治論は」に白丸傍点]、十年前も今日も[#「十年前も今日も」に白丸傍点]、少しも變化もなければ進歩もないやうである[#「少しも變化もなければ進歩もないやうである」に白丸傍点]。進歩黨を去て政友會に赴いた時は、世間から變節だとか無節操だとかいはれたが、實は變節でも何んでもない。唯だ一寸乘替汽車に乘つて見たばかりで[#「唯だ一寸乘替汽車に乘つて見たばかりで」に白三角傍点]、其の行先はチヤンと極まつて居つたのである[#「其の行先はチヤンと極まつて居つたのである」に白三角傍点]。
▲理想家に免がれない短所は、常に自己に重きを置きすぎる弊があつて、兎角時代の精神を看過するから、實行的手段には迂濶であるやうだ。此の社會を自己の理想通りにして見たいと思ふのは[#「此の社會を自己の理想通りにして見たいと思ふのは」に白丸傍点]、面白いことは面白いが[#「面白いことは面白いが」に白丸傍点]、社會は自己の理想より進歩して居ること
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