して」に傍点]、其屠龍縛虎の雄文一世を傾倒して何人も敵するものなし[#「其屠龍縛虎の雄文一世を傾倒して何人も敵するものなし」に傍点]。聞く非政黨内閣は氏の持論なりと[#「聞く非政黨内閣は氏の持論なりと」に傍点]。二宮氏[#「二宮氏」に丸傍点]は曩きに獨逸に留學して、國家主義を齎らし歸り、今や現に『京華日報』の主筆として、日に政黨攻撃の文を草し[#「日に政黨攻撃の文を草し」に傍点]、伊藤侯が内閣を憲政黨に引渡したるの擧を目して亂臣賊子の所爲なりと極論したることあり[#「伊藤侯が内閣を憲政黨に引渡したるの擧を目して亂臣賊子の所爲なりと極論したることあり」に傍点]。此兩氏は共に山縣系統の保守派にして[#「此兩氏は共に山縣系統の保守派にして」に白丸傍点]、唯だ朝比奈氏は二宮氏に比して少しく温和にして變通あるを異りとするのみ[#「唯だ朝比奈氏は二宮氏に比して少しく温和にして變通あるを異りとするのみ」に白丸傍点]。
 更に山縣系統の進歩派を見るに、實は極めて少數にして、正直に政黨内閣を信ずる者は[#「正直に政黨内閣を信ずる者は」に白丸傍点]、恐らくは絶無なる可し[#「恐らくは絶無なる可し」に白丸傍点]。されど清浦[#「清浦」に丸傍点]、曾禰[#「曾禰」に丸傍点]、桂[#「桂」に丸傍点]等の諸氏は半ば政黨内閣を信じ[#「半ば政黨内閣を信じ」に傍点]、青木子[#「青木子」に丸傍点]に至ては十中八九までは政黨内閣論に傾き[#「十中八九までは政黨内閣論に傾き」に傍点]、現に山縣内閣成るの前[#「現に山縣内閣成るの前」に傍点]、自ら憲政黨に入黨を申込みたりといふを見れば[#「自ら憲政黨に入黨を申込みたりといふを見れば」に傍点]、子は遠からずして政黨員たるの日ある可し[#「子は遠からずして政黨員たるの日ある可し」に傍点]。
 山縣系統は以上の如く兩派に分かれ、兩派互に侯を擁して、第二次内閣を組織したるを以て、其内閣は超然を本領とするにもあらず[#「其内閣は超然を本領とするにもあらず」に傍点]、政黨を基礎とするにもあらざる雜駁の内閣を現出するに至れり[#「政黨を基礎とするにもあらざる雜駁の内閣を現出するに至れり」に傍点]。世間或は山縣侯を以て憲法中止論者とするものあれども、事實は大に然らず。侯は謹愼周密の小心家にして[#「侯は謹愼周密の小心家にして」に白丸傍点]、決して憲法を中止するが如き大英斷を施し得る如き人物に非ず[#「決して憲法を中止するが如き大英斷を施し得る如き人物に非ず」に白丸傍点]。唯だ侯の系統に屬する屬僚中に無責任の激論を爲すものあるが爲め、世人をして侯を誤解せしめたるのみ。但し昨年伊藤内閣の末路に方りて、宮中に元老會議あり。伊藤侯の提出したる善後策に對して[#「伊藤侯の提出したる善後策に對して」に傍点]、黒田伯の憲法中止論出でたるは[#「黒田伯の憲法中止論出でたるは」に傍点]、事實として傳へられたれども[#「事實として傳へられたれども」に傍点]、是れとても伯が熱心に主張したるには非ざりしといふ[#「是れとても伯が熱心に主張したるには非ざりしといふ」に傍点]。山縣侯の謹愼を以てして[#「山縣侯の謹愼を以てして」に傍点]、豈斯くの如き暴論を唱ふることあるべけんや[#「豈斯くの如き暴論を唱ふることあるべけんや」に傍点]。
 余は曾て侯は出處に巧みなる人なりと評したることあり。其今囘に處する所以の者を觀るに、亦頗る其巧處あるに感服すと雖も、侯は到底政治家に非ず[#「侯は到底政治家に非ず」に傍点]。久しからずして必らず退隱せむ[#「久しからずして必らず退隱せむ」に傍点]。唯だ其現在の位地は[#「唯だ其現在の位地は」に傍点]、侯が從來養ひ來れる潛勢力によるものなるを知らば[#「侯が從來養ひ來れる潛勢力によるものなるを知らば」に傍点]、侯の潛勢力にして存在する限りは[#「侯の潛勢力にして存在する限りは」に傍点]、侯は決して未だ政界の死人に非ずと知るべし[#「侯は決して未だ政界の死人に非ずと知るべし」に傍点]。(三十二年一月)

     山縣首相に與ふ

      ※[#始め二重括弧、1−2−54]一※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 侯爵山縣公閣下、我輩は多年閣下の政敵として論壇に立つものなりと雖も、閣下の徳を頌するに於て、亦敢て政府の屬僚に讓らざるの誠實を有せり、彼の政府の屬僚が閣下の徳を頌するや、動もすれば其過失をも辯護して閣下を誤らむとするものあり、我輩の閣下の徳を頌するや、唯だ其頌す可き所以を頌して、有りのまゝに所見を披陳するに外ならず、隨つて閣下の過失を擧示して忌憚なき所あるも[#「隨つて閣下の過失を擧示して忌憚なき所あるも」に傍点]、故らに訐いて以て直とするには非ずして[#「故らに訐いて以て直とするには非ずして」に傍点]、之れを閣
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